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#3 部活動のススメ

「今日の授業、マジで長いー。なによ、進路計画の時間って。まだ、模試の勉強でもしてた方が有意義だって」


 アキは担任が席を外しているのを良いことに、優太の隣の欠席者の席に腰を下した。


「桜子ってー……」


 と、アキは優太に近づいて耳打ちをする。教室はほぼ休み時間のようにざわついており、アキ達の声を気にしている生徒はいない。アキは机をガッと近づけた。


「どういう進路に進んだの?」


 アキも面倒だと言いながらも進路に迷っているようだ。


「会社は結構、有名な所みたいだけど……」


 確かに、優太の勤め先は大企業であった。社内のポジションなんて、会社から出れば分からないのだから就活に成功したと言える方だろう。


「大学は、戸田塚大の商学部だったよ」


「頭、いいんだ」


 アキは優太を羨望の眼差しで見つめる。優太は、本当に学生って頭がいいとか、足が早いとかで羨ましがられたりするよな……と懐かしい気持ちになった。


「若干? 勉強は好きなんだよね。正解があるっていうか。正しく導けた! っていう達成感?」


「あー分かるような」


「その後、所謂大企業? に入って。後はこないだ話した通りだよ」


 はぁ……とため息をついて外を眺めると、雀が木の上で仲良く喧嘩をしていた。


 ――明るい外を見たのはいつぶりだろう。出社の時は下ばかり向いていたからなぁ……


「嫌なこと、思い出させた? ごめん」


 アキが申し訳なさそうにしゅんとしていると、優太は乾いた声で笑った。


「僕こそ。気を使わせてしまって、ごめんね?」


「ううん。ってか……どうしよー……第一希望から、第三希望まで書かなくちゃいけないんだよ? まじて入れてくれる大学ならどこでもいいよ……」


「確かに、そうだよね。私は何て書こうかな? そもそも、私って大学進学したかったのかな?」


 桜子の考えは分からないが、もし優太が桜子として今後、何年か生きて行くのならとれる選択肢を増やしておいた方が良いと優太は思った。


――出来るだけ偏差値の高い所にいった方が桜子さんのためなのかな?


 そもそも、自分は元に戻れるのだろうか? 元に戻りたいのだろうか?優太は、自問自答をしながら、自分の思考の世界に入っていく。考え込んでいる優太の様子をみてアキは自分の席へと戻っていった。


 ガラガラと教室のドアが開き、教員が授業の終わりを知らせる。生徒たちはバタバタとやたらと急いでいるようだ。?気に帰り支度をしながら優太は近くにいたアキに尋ねる。


「みんな、何をそんなに急いでんの?」


「えっ? 部活じゃない?」


「あー」


 そういえば、そんなのあったな。桜子さんは、どんな学校生活を送っていたのだろうか。


――ってか、今はどこにいるんだろう。


 帰宅の支度をしていると、アキが優太の前に立ちはだかる。


「確か、桜子、部活に入ってたよ」


 今回は、アキが同行してくれるとのことで、二人は階段を昇りに昇り、屋上に辿り着いた。


「今時、解放してるって珍しくない?」


「部室が足りないってことで特例的に鍵が借りられるんだよ。基本は閉まってる」


 ガチャリと建付けの悪い扉を開けると、埃っぽさが充満している。


「ゲホゲホ……」


 優太は涙目になりながらアキを見る。アキもまたせき込んでいた。


「誰もいないけど……」


「何人の部活かとか、詳しいことは知らなかったんだよね。こんなに不真面目な活動だったなんて知らなかったよー」


「そうだね……折角来たし、とりあえず掃除だけしてく?」


 優太とアキは掃除に取り掛かった。


 ……といっても、部室の備品を漁っては面白がっているだけだ。一応、濡れた雑巾をもって埃を拭き落としていく。大きなものを部屋の中央に集めた所でアキが感嘆の声を漏らす。


「うわー……絶対これ、高い奴だよ。理科室にあるのより……なんかオシャレだし。この辺なんか、彫刻っぽくない?」


 薄汚れた布をめくりあげると、天体望遠鏡が現れた。授業教材のそれと比べて、骨董品感がある。部室というより、倉庫っぽい感じで掃除はまるで宝探しのようだ。


「ねぇ! 桜子! 見て見て! 星座早見表! カッコイイー」


「なんか、このフラスコスタンド、ジブリみたい」


「ってか、アキは部活大丈夫だったの?」


 優太が、棚を拭き上げながらアキに尋ねた。アキは掃除に飽きた様子で部屋にあった椅子に腰を下している。


「あー。私、帰宅部だから、大丈夫だよー」


「部活って強制参加じゃないんだ」


「うん。任意」


「ってか、これって……何部?」


 アキが、優太の問いに答えようと口を開きかけたその時、扉がガチャリと開いた。


 大きな眼鏡をガチャガチャと揺らしながら走ってくる少女の髪は、三つ編みおさげの間からふわふわと溢れていて、色々大雑把な子なのかなぁと想像できた。背が高く、アキより大人っぽい見た目をしている割には子供らしい印象だ。


 優太は、胸の上で揺れているタイの色を確認する。水色ってことは……一年生のようだ。


 ――胸をみたかった訳ではない。断じて。


「せんぱーい! ニュース見ました? 惑星が一列になるって! 絶対一緒に見ましょうね! ってあれ? 隣の方は……? 先輩って友人とかいたんですね!」


 なんだか失礼な物言いの女子生徒の胸には松川千早とプレートがついている。


「私は、須藤アキ。ちょっと! 桜子、あんた舐められてるよ……まともに部活してないから……」


 千早は、きょとんとした顔でアキと優太を見つめた。


「まともな活動じゃないって? 毎日元気に活動してたじゃないですか! 最近先輩が来なくなって……心配してたんですよ! 千早のこと、忘れちゃったんですか?」


 アキは目を見開いて、千早の言葉を疑った。正直、優太も同じ考えだ。先程の掃除でかなり綺麗になったが、掃除前の部室を思い出すと、一時間も居たくない。


「こんなに埃まみれの所で活動してた訳?」


「ほとんど、外で活動していたので。いいんですよ汚くなって。私たちの愛は清く美しいのだから!」


 千早にぱっとスポットライトが当たったような錯覚をした。脳内で流れるロマンティックなBGMに優太は一人でツッコミを入れる。アキも同じような事を考えているようでしきりに首をふっている。


「桜子と、千早はどんな関係だったの?」


「えー……桜子せんぱーい……言っちゃいますー?」


 千早はもじもじと桜子を見つめている。何も記憶のない優太は曖昧に微笑む他なかった。建付けの悪い扉が風でガタガタと揺れる音が三人の緊張感を高める。優太は、もうどうにでもなれと口を開いた。


「ごめんね。千早ちゃん。私、最近の記憶が曖昧で……」


 クラスでは、大人しい生徒だったと言われていた桜子は、部活ではどんな様子だったのだろうか。千早の話ぶりから察するにちょっとクラスのキャラとは違うようにも感じる。


「えー。記憶喪失的な? ふふふ……教えてあげますよ。私たちがどんな関係だったか! それは、それは美しく、愛らしい姿を私にだけは見せてくれて……あぁ……可愛かったな……先輩……」


 頬を緩ませ、少し潤んだ瞳でどこか遠くを見つめる千早を見ながらアキは肩を竦めた。


「……妄想が入ってそう」


 ――同感


「そういえば、先生にこんなお知らせをもらって……」


 千早はわら半紙のプリントをこちらに見せてきた。上質紙じゃないなら、大した知らせじゃないだろうと流し読みでプリントを読む。


「えっと……来年度より、部活動における最低部員数を設ける……四人以下の所は……廃部!?」


「うげー……天体部は二人だけですよぉー」


 へなへなとへたりこむ千早にアキは小さく手を挙げた。


「入ってもいいよ」


「アキさん! ホントに? ありがとうございます!! ……これで先輩とのイチャイチャは守られそうだ……」


「アキ先輩な! ……あと一人、あてはあるの?」


「アキ先輩のオタクがウチのクラスにいるんです。部活継続は硬いですね!」


「あー……あの子、あんたの知り合いなんだ」


 アキが怪訝そうに千早を見つめる。千早はえへん! と鼻を高くして自慢げな表情だ。


「フルーツパフェ愛好会のメンバーです!」


「フルーツパフェ?」


 首を傾げて横目でアキを確認すると、アキは苦虫を?み潰したような顔をしていた。


「……詳しくは聞かないで」


 ――そっとしておこう。


 何はともあれ、天体部の廃部は免れそうだ。


 ――思ったより、この学生生活、楽しいな。ってか、フルーツパフェってなんだ?


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