33 たとえ罠であっても
お母様に相談してみると、最初は驚いた様子だったけれど、返事がこないことは気になっていたらしく、自分は仕事が忙しいから代わりに見に行ってほしいと言ってくれた。
「私も一緒に行きたいけれど、カークが不在の今、私がいないと辺境伯家の人間が誰もいなくなってしまうから、よろしく頼んだわよ」
「ありがとうございます、お母様。お父様たちが帰って来たら、私がお留守番をしますので、お父様たちとどこかへ出かけてくださいね」
「ありがとう。だけど、あなたも一緒よ」
お母様は私の頬を優しく撫でたあと、私の手の上にのっているシイちゃんを優しく見つめる。
「カークたちが戻ってきた時に、シイがまだこの家にいたなら、あなたも一緒に行きましょうね」
シイちゃんはお母様の言葉に嬉しそうに反応して、キラキラ光りながら何度も飛び跳ねた。
リディアスのことは信じている。だけど、会いに行くと伝えてしまえば意味がない気もした。これって疑ってるからそう思うのかしら。いや、確信を持ちに行くのだから、言わないほうが良いわよね。行くことを伝えてしまっていたら、わざと会わないようにしたなんて思ってしまうかもしれないもの。
その気持ちをお母様に伝えると「気持ちはわからないでもないけど」と苦笑してから続ける。
「カークにだけでも連絡を入れておいたらどう?」
「何も言わずに行くのと、連絡して行くのなら、お父様はどっちのほうが喜ぶと思います?」
「あなたが会いに来てくれるのなら、事前連絡があってもなくても喜ぶと思うけど、連絡は入れておいたほうが良いと私は思うわ。何かの理由で入れ違いになっても困るし、それどころじゃない場合は手を打ってくれると思うの。リディアスには内緒にしておいてほしいと伝えておく、でいいんじゃないかしら」
「わかりました」
お母様の提案に頷き、私は早速、部屋に戻ってお父様に手紙を書くことにした。
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それから10日後、学園の先生にはお母様のほうから家の用事があるため、しばらく学園を休ませると連絡を入れてもらうことになった。パトリック様のことについては、ルワナ様にお願いしたので大丈夫……なはずだ。
学園の休みの日に出発するから、私の長期の休暇がわかるのは休み明けになる。パトリック様が慌てて連絡をしても、私が着くよりも先にリディアスたちに知られることはない。
ただ、シイちゃんのことがあるので、フラル王国には長期で家を空けることを伝えないといけなかった。
フラル王国の国王陛下は、ロードブル王国が私を欲しがっていることを知っていた。だから、私をおびき寄せるための罠かもしれないと忠告してくれた。
それはそうかもしれない。
だけど、正攻法で私を誘っても断られるからって、私の居場所をなくそうとするやり方は許せない。
本当の家族に捨てられた私にとって、今の家族は自分の命よりも大切なものだ。絶対に奪われたくないし、奪おうとする人は絶対に許さない。
もしも、リディアスが誘惑に負けて浮気していたら、それは恋人としてひっぱたいてやるんだから。
誘拐しようとしても、私にはシイちゃんがいるから大丈夫だ。辺境伯家の娘ということで、多少の護身術も身につけている。
不安とお父様やリディアスに会えるという喜びを胸に抱えながら、私はシイちゃんと護衛のシモンズと共に出発したのだった。




