30 お茶会……ではなく、薬草茶会 ④
薬草茶会にするということは、事前にルワナ様には伝えておいたけれど、パトリック様にはどんな見学会になるかは当日のお楽しみだと話していた。
コニファー先生の家は広大な森の入り口近くにあり、家の周りの道が整備されておらず、馬車で行くのは難しい。
一度学園で合流してからミリルの家の馬車に乗り、少し離れた場所で降りて、先生の家までは徒歩で行くことになった。
先生の家には私は何度か行ったことがあるので、二人には動きやすくて汚れてもいい服装で来てほしいと頼んでいた。
それなのに、二人とも悪路を歩くには推奨されないような服を着てきたので困った。
私は薬作りで服がすぐ汚れるため、似たような服を何着か買って着まわしているが、ルワナ様はドレスしか持っていないらしく、ドレスの裾が太ももくらいまである長さの草に引っかかって、とても歩きにくそうだ。
パトリック様も白い服に土が付いて汚れたとブツブツ言っている。
私は無言で歩いていたが、沈黙も辛くなってきた。
何かあった時のためにと、それぞれ護衛を連れてきているが、聞かれて困る話でもないので、パトリック様に探りを入れてみることにした。
「ロードブル王国には多くの薬師がいらっしゃるんですよね」
「ああ。みんなで切磋琢磨して、より良い薬師を生み出そうとしているんだ」
「より良い薬師、ですか?」
薬師というだけで重宝される世界なのに、それ以上に何を求めるつもりなんだろう。
私の問いかけに、パトリック様は笑顔で答える。
「みんな命が惜しいものだからね。どんな権力者も薬師をほしがる。薬師がいれば、よっぽどの病気でない限りは治してくれるからね。ロードブル王国は武器は持っていないが、存在しているだけで防御できるんだよ」
攻め込まれて占領されたら最後だけれど、彼らは彼らなりに国を守るやり方があるし、最悪の場合も命は取られないといったところかしら。
でも、逆にそれって危ないんじゃないの?
「どの国の権力者も薬師の方をほしがるのでしたら、ロードブル王国にだけ薬師の人間が多くいるのは危険かと思うのですがどうなのでしょうか」
ルワナ様も疑問に思ったらしく、パトリック様に質問してくれた。私たちにしてみれば、気に障るような質問ではないと思っていた。けれど、パトリック様にとっては触れられたくなかったことらしく、不機嫌そうな顔で答える。
「他国の人間の君にどうこう言われたくない」
「も、申し訳ございません!」
他国の人間にどうこう言われたくないがまかり通るなら、私もあなたにそう言いたいんですけど!
目に見えて落ち込んでしまったルワナ様が可哀想に思えて、パトリック様への怒りを鎮めて話しかけようとした時、コニファー先生の声が聞こえてきた。
「ミリル! こっちよ〜!」
獣道に近い細くて荒れた道の先に、ツタに覆われた赤い屋根の二階建ての家の前で、コニファー先生が手を振っていた。
「コニファー先生!」
笑顔で手を振り返し、私は未だに元気のないルワナ様の手を取る。
「今日は薬草のことについていっぱい話しましょう!」
「え? あ、はい」
呆気にとられた表情のルワナ様の手を引いて歩き出すと「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」と慌てた様子でパトリック様が追いかけてきた。
さあ、これからが本番。
コニファー先生が見た目は酷いけれど美味しい薬を作れる人だと、パトリック様に思ってもらわなくちゃ!




