29 お茶会……、ではなく薬草茶会 ③
次の日は薬草学の日だったので、コニファー先生が家にやって来てくれた。普段なら薬を作りながら雑談をするのだけど、今日は薬作りはやめて、コニファー先生とゆっくり話をすることになった。
「ロードブル王国のやり方は前々から聞いていたし、そんな時がいつかは来るだろうと思っていたから大して驚いてはいないんだけれど、あなたが学園に通っている間だとは思っていなかったわねぇ」
「近隣の国ならまだしも、私がここまで有名になっているとは思っていませんでした」
「あなたのおかげで私がかなり有名になってしまったもの。弟子になりたいと訪ねてくる人が増えたわ。でも、断り続けてきた。だから余計に弟子であるあなたが目立ってしまったのかもしれないわねぇ」
コニファー先生はそう言って大きなため息を吐いた。元々は薬草学を教えてもらうだけだったのに、薬の作り方まで教えてくれた。私の先生になったせいで、コニファー先生たちはのんびり隠居生活ができなくなってしまったことを本当に申し訳なく感じる。
「巻き込んでしまって申し訳ございません」
「巻き込まれたなんて思っていないから、気にしないでちょうだい。それに私はあなたには借りがあるんだから」
「借りって、先生の旦那様を助けたことですか? あれは、当たり前のことをしただけですし、もうあの時の分は返してもらっています!」
「人は死んでしまったらどうしようもないの。あなたのおかげで主人は今も生きている。簡単に返せる借りではないのよ。それに、あなたは私の可愛い愛弟子よ。師匠が弟子を助けるのは当たり前のことよ」
コニファー先生は私の手を握って言ったあと「もう、薬師としては追い越されちゃったけどね」と付け加えて笑った。コニファー先生には私の生い立ちを伝えたから、私が苦労してきたことを知っている。
だから、こんなに優しいことを言ってくれるの?
そう思うと、目頭が熱くなった。そんな私を見て、コニファー先生は笑う。
「あらあら、ミリルは泣き虫ねぇ」
「泣いてません!」
目が潤んでしまったのは確かだけど、涙を流してはいなかったから強く否定すると、コニファー先生は私に優しい眼差しを向ける。
「大人になったって一人で生きていけない時はあるわ。助け合うのは当たり前よ。どうしても気になるなら弟子が師匠に助けを求めたと思えばいいだけよ」
「ありがとうございます。では、これからは遠慮なく何度も助けを求めようと思います!」
「……それは少し違うかしらねぇ」
私たちは顔を見合わせて笑い合うと、パトリック様にどう対処するか。そして、美味しい薬をコニファー先生にどうやって作ってもらうかなど、見学会について話し合った結果、今回は薬ではなく、薬草茶をみんなで作って楽しむ会にしようという話になった。
「パトリック様はそれで納得してくれるかしらねぇ?」
「招待してもいないのに自分から来たいと言ったんです。文句は言えないでしょう。それに薬を作っているところは見せてあげたら良いかと思うんです」
「そうね。薬なんだから、飲ませる必要はないものね。だけど、ミリルが作るようなドロドロの薬にはならないわよ?」
「そのことについては任せてください」
テーブルの上に置いていたシイちゃんに視線を送ると、キラリと光って返事をしてくれた。
こうして打ち合わせを重ねていく内に、あっという間に日が過ぎて、茶会ならぬ薬草茶会の当日になったのだった。




