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8  第三王女の恋 ①(リディアス視点)

 今日はフラル王国の北の辺境伯の令息であるデンスから招待されたパーティーに来ていた。デンスは交換留学生として、一年だけハピパル王国に来ていて、クラスの中では俺が彼と一番仲良くしていた。

 フラル王国になんて本当は来たくなかったけど、デンスは気の合う友人だし、大人になれば仕事に関わる付き合いが出てくるだろうから、無碍に扱うこともできなかったということもある。


「リディアス! 今日は来てくれて、本当にありがとう!」


 面識のある貴族たちと話をしていると、紺のタキシード姿のデンスが笑顔で近づいてきた。


「今回だけだからな。フラル王国の王家の人間に近寄りたくないんだ」

「前々から君はフラル王国の王家が嫌いだよな。何かあったのか? 過去にフラれたりしたとか?」


 ミリルのことも王家の人間に含めるなら『はい』だが、彼女は俺の妹だから「そんなわけないだろ」と否定した。


「今日はミリルちゃんの婚約者も招待しているんだ。せっかくだから、ミリルちゃんにも来て欲しかったな。久しぶりに会いたかったのに」


 デンスには彼がハピパル王国にいる間に、ミリルに会わせたことがあった。会いたいと言っている相手に、何の理由もなく会わせないほうが怪しまれると父さんから言われたからだ。

 ミリルがミーリル殿下だった時代には病弱だったこともあって、貴族とは会っていない。だから、多くの人間が彼女の顔も知らない。デンスもミーリル殿下には会ったことがなかったから、ミリルを紹介しても「養女だから似てなくて当たり前か。妹のほうが穏やかそうで可愛いね」と憎まれ口を叩いて笑っていた。


「ミリルは人混みが嫌いだし、デビュタントもまだだから、こういう場所には連れて来れない」

「ああ、そうだったか。でも、今年には社交界デビューするんだろ?」

「まあな」

「それでビサイズ公爵家のお坊ちゃんは母親と来ているってわけか」

「ビサイズ公爵家も呼んでるのか?」

「ああ。ビサイズ公爵と父上は仕事の取引で関係があるんだ。噂を聞き付けた彼が、どうしても出席したいってうるさくてさ」


 デンスは苦笑して続ける。


「シスコンの君に言うのもなんだが、彼は面倒な男だよ。ミリルちゃんが早々に婚約破棄されることを祈っておく」

「それってどういう意味だよ」


 立ち去ろうとするデンスの肩を掴むと、最初から話す気だったのか、俺に近づいて小声で話し始める。


「彼の母親、長男じゃなく次男を溺愛しているんだ。世界で一番かっこ良くて素敵だって言っているし、本人もそう自負している。だから、気に入った子が彼に恋をしないと、しつこく付きまとうらしい」

「本当に面倒な奴だな。……で、何でデンスがそんなことを知っているんだ?」

「知り合いに彼に付きまとわれた子がいるんだよ。ハピパル王国内では話をするなと言われているらしいよ」

「他国に来たらいいのかよ」

「いいんじゃないかな。旅の恥はかき捨てってやつだろう。あ、ほら、噂をしていたら、例の彼があそこに見えるよ」


 デンスの視線の先には、ブラウンの髪に青色の瞳を持つノンクード様がいた。高身長で痩せており、整った顔立ちではあるが、どことなく陰気なオーラを漂わせていて粘着質そうにも見える。ノンクード様は可愛い女性が好きだと聞いたことがあるが、噂は真実らしく、今もパーティーに訪れている若い女性に目が釘付けになっていた。

 彼の視線の先には、鮮やかなピンク色の髪をシニヨンにした、おっとりした雰囲気を醸し出す女性がいた。それが誰だかわかった瞬間、俺は眉根を寄せた。

 ノンクード様の視線の先にいたのは、ミリルの実の姉、フラル王国の第三王女のシエッタ様だった。


「シエッタ様は婚約者探しだとかいって、一年前くらいからパーティーに出席していて、今日も絶賛婚約者選び中みたいだ。それを聞いたビサイズ公爵家の坊ちゃんがどうしても参加したいってさ」

「なら、婚約者にノンクード様を選んでくれねぇかな」


 俺が呟くと、デンスは苦笑する。


「ノンクード様はミリルちゃんの婚約者だろ。妹の婚約者を薦めてどうするんだ」

「ミリルは本当は婚約に乗り気じゃない。向こうの望みで婚約しただけだ」

「兄としては、彼は妹を幸せにできる人間ではないと言いたいわけか」

「そういうことだ」


 ミリルには幸せになってもらいたい。本当は俺が幸せにしたかったけど、ミリルは俺のことは異性として意識なんてしていない。それに、ミリルが幸せになるのであれば、相手が俺じゃなくてもいいと思っていた。

 だから、ノンクード様は駄目だ。ミリルは彼のことを好きじゃないし、彼だって浮気癖が酷いにも程がある。


「リディアスさんも来ていらしたのね。今日のパーティーは男性の比率が本当に多いわ」


 紫色のウェーブのかかった髪を背中に垂らしたジーノス様は、胸元が大きく開いた紫色のイブニングドレスという服装で、俺にしてみれば寒そうにしか見えない。当の彼女は、一部の男性がちらちらと彼女の胸元を見ているのを楽しんでいるようにも見える。


「ジーノス様にお目にかかれて光栄です」


 俺とデンスが頭を下げると、ジーノス様は妖艶な笑みを浮かべて、俺たちを見つめる。


「あなたたちも素敵だけど、ノンクードには敵わないわね」


 なんと答えれば良いのか迷っていると、ノンクード様が合流してきた。


「リディアスさん、あなたもいらしていたんですね」

「どうも」


 一礼すると、ノンクード様は俺に話しかけてくる。


「ミリルには内緒にしていてほしいのですが、あそこにいる女性、すごく可愛くないですか?」


 ふざけんな。

 と言ってやりたかったが、相手は公爵令息だから言えるはずもない。相手にしなかったら見ろ見ろとうるさいので、言われる方向に目を向けた。そこにはシエッタ様がいたので、俺はすぐに目を逸らした。


「ミリルのほうが可愛いです。それから、あの方はフラル王国の第三王女殿下ですよ」


 大きい声で答えたつもりだったが、ノンクード様の耳には届かなかったようで、彼は興奮した様子で俺の腕を掴む。


「リ、リディアスさん! 彼女が、こ、こっちに来ましたよ!」

「そこのあなた! わたしの婚約者になる気はない?」

「は、はい!」


 いや、お前、婚約者がいるだろ。

 返事をしたノンクード様を睨みつけると、シエッタ様が言う。


「あなたじゃないわ。そっちのあなたよ!」


 そう言って、シエッタ様は俺の腕に触れようとした。嫌悪感が湧いて素早く避けると同時に、言葉が口からこぼれ出る。


「お断りさせていただきます」

「はあ?」


 俺が断ると思ってもいなかったのか、シエッタ様は大きな口を開けて聞き返してきたのだった。


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