20 恋人からのお願い ③
シイちゃんにどういうことか聞いてみると、一緒に作る相手によって、色や味が変わるらしい。そして、一緒に作ると言っても、隣で作るのでは意味がなく、私の薬草鍋に何らかの形で関わった時だけらしい。
コニファー先生は、見本として隣で作ってくれていただけだったから、こんな変化がなかったのでわからなかったのだ。
相変わらず火を止めてもグツグツと動く鍋の中身を見つめて、シイちゃんに尋ねる。
「効力は落ちるのかしら」
『ウーン。ソウダネ。コニファーナラマダシモ、リディアスノヨウナシロウトガタズサワッタモノナラ、コウリョクガトイウヨリ、アジニヘンカガアルカモシレナイネ』
「どういうことだ?」
いまいちピンとこなかったのは、リディアスも同じだったようで彼が尋ねると、シイちゃんは答える。
『フツウノオレンジジュースダッタラ、ダレガノンデモオレンジジュースノアジトイッシヨ。ミリルノチカラノオカゲデ、マズイクスリデハナイトオモウケド、リディアスガ、ノミタイトオモッタアジニナルンジャナイカナア』
「俺が酒を飲みたいと思ってたらどうなるんだ?」
『アルコールナシノオサケノアジ』
「果実酒じゃなくて、果実ジュースになるということね」
納得していると、リディアスが聞いてくる。
「今作っていたのは、何の薬なんだ?」
「体力回復薬よ。体力が弱っている時でも何か食べるべきなんだけど、食欲がなくて口にできなかったりするでしょう? だから、飲み物にしてみようと思ったの」
「普通は粉薬なのか?」
「うん。でも、子供は苦手だし、食欲がない時に食べ物よりかは飲み物のほうが口にしやすいかなと思ったの」
「子供だけじゃなくて、ミリルみたいに粉薬が苦手な大人もいるよな」
リディアスはからかうようにニヤリと笑う。
そうなのよね。薬師にはなったけど、粉薬を飲むのが苦手で、今でも上手く飲めなくて薬を盛大に吹き出してしまう時がある。
自分の作った薬で味が美味しくても、何か違和感があるのよね。
人にもよるでしょうけど、私の中では飲み物で美味しい薬が一番飲みやすい。水分補給にもなるしね。
「体力回復薬か。俺にも作れるかな」
「そう難しくないもの。だけど、薬師と一緒に作るようにしてね。配分を間違えたら毒になる可能性もあるから」
「わかった」
その後、私とリディアスは一緒に初歩的な薬を作ってみた。いつものことなのだが、私の作った鍋の中身はどす黒い紫色のドロドロした液体なのに、リディアスが作ったものは深い緑色のサラサラとした液体だった。
それぞれが作ったものをコップに入れて、テーブルの上に並べてみた。すると、私の作った薬はゴポゴポと泡が浮かび上がったかと思うと、すぐに消え、なぜか勝手にリディアスのコップに液体の一部が飛び込んだ。
「ホラーなんだが……」
「うう、ごめん」
呆れた様子のリディアスに謝ると、シイちゃんが紙の上を転がる。
「クスリガモットオイシク、モットコウリョクノアルモノヲ! ッテイッテルヨ」
薬と会話できることがすごいと感じた私とリディアスだったが、考えてみれば石と会話できる時点でありえないことだ。
幻聴が聞こえると兵士も言っていたし、私も聞いたことがある。
薬にも意思があるのね。
呑気なことを考えてから、リディアスが作った薬の出来を確かめることにしたのだった。




