17 糸を引く人物 ③
ロードブル王国は他国を挟んではいるため離れてはいるが、ハピパル王国の南に位置する小国だ。薬師や薬草学を学んでいる人が多い国で、武力を持たないかわりに、国境付近には幻覚が見えるお香が焚かれているそうだ。それは不法侵入する人間にのみ効果を発揮する。不法侵入者は漏れなく幻覚を見て正気を保てなくなるらしい。
フラル王国とロードブル王国は敵対国ではないが、友好国でもない。どうして、その国の王女が他国の第二王子殿下に近づいたの?
「王女殿下はわが道を行く人物だと聞いたことがある。だから、自分の思い通りの人物かどうかテストをするつもりだったのかもしれない」
「どういうことですか?」
お父様に尋ねると、隣に座るお母様が答える。
「優秀な薬師を見つけては、自分の国に呼び寄せているそうよ。逆に必要じゃない人物は外に追い出すのだと聞いているわ」
「……じゃあ、ノーラさんは引き抜かれる可能性があるということですか?」
「そうね。逆にもう一人の女性は排除されるかもしれないわ」
お母様だけでなく、お父様やリディアスの表情も重いものになった。
一部の薬師の間ではロードブル王国から招かれた薬師は超一流の薬師として一目置かれるそうだ。逆にロードブル王国にいる人間が外に追い出されることは、薬師としての信用を失うことになる。
換金しに行った女性もそのことは知っているはずだ。裏で、ロードブル王国の王女が絡んでいることを知らないから馬鹿なことをしたのかしら。
まあ、彼女が今回選ばれたということは目をつけられていたということだし、遅かれ早かれ、薬師としての人生は終わっていたでしょうね。
それは自業自得なのに、どうしてリディアスたちは浮かない顔をしているんだろう。
『ロードブルオウコクハ、オウジョガソクイスルコトガデキルカラ、ツギノオウハ、ジョウオウダトイワレテイル』
「女王の国は世界的に珍しいから素敵ね」
拍手をすると、リディアスがため息を吐いて私の額を小突く。
「ミリルは呑気に考えすぎだ。たぶん、王女はミリルに興味があるから、今回の第二王子の件に絡んだんだろう。彼女が女王になったら、ほしいものを権力で手に入れようとするかもしれない」
「え? も、もしかして私がコニファー先生の弟子だから、ロードブル王国の王女に目をつけられたかもしれないって言いたいの?」
「それだけじゃない。先日の会議にロードブル王国の王女が出席していたなら、第二王子がお前の作った薬の話をした可能性がある」
「あの人はおしゃべりだものね。……とりあえず、私がフラル王国の元第四王女だと話してないといいんだけど、それは大丈夫?」
シイちゃんに尋ねると、頷くように一度だけ光った。
「コニファー女史の薬もミリルが作ったと感づいてるかもしれない」
お父様はそう言ったあと、笑顔を見せて続ける。
「せっかくの旅行なんだ。すぐに動きがある話じゃないし、今は楽しいことだけ考えよう」
楽観的すぎる気もしたけれど、悩んでもどうしようもない。来たるべき日が来たら私なりに戦う。
そう決めて、今はお父様の言う通り、旅行を楽しむことにした。




