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15  糸を引く人物 ①

 ノーラさんと一緒に薬草を探したものの、幻と言うだけにやはり見つからなかった。疲れてきたこともあり、家族で休憩をとることにした。

 メイドがカーペットを敷いてくれたので、その上に座り、お茶を飲みながら話す。


「薬草を探す体勢が辛いです」

「若いミリルが辛いんだから、私なんてもっと辛いわ。幻と言われるだけあって、本当に見つからないわね」

「ここまでくると、意地でも見つけてやりたい気分になるな」


 お父様の話に、私も同意する。


「私もです! もし、見つけられたら絶対に嬉しいですよね!」

「でも、一本だけじゃ薬は作れないんだろ?」

「そ、それはそうなんだよね」

 

 リディアスに指摘されてしまい苦笑する。

 他の薬草と混ぜてかさ増しはできるけれど、効力は薬草が多ければ多いほどいい。


 できれば、5本くらいはほしい。


 草原というだけあって、一日二日で全てを確認できるような広さではない。かといって、明日の日程を変更してまで薬草を探すほど切羽詰まっているわけでもなかった。

 持参のサンドイッチをつまみながら、どうしようか考えていると、言い争う声が聞こえてきた。


「真面目にやりなさいよ! あなただって、レイティン殿下に睨まれたら困ることがあるんでしょう!」


 かなり離れた場所で、ノーラさんがもう一人の薬師の女性に怒鳴られていた。人の話に聞き耳を立てるのは良くないが、周りに遮るものはなく、大きな音を発する物も人もいない。

 聞かれたくないのなら大声で話すべきではないし、聞くつもりはなくても聞こえてくるものは仕方がない。


 私たちは顔を見合わせたあと、無言で食事を続ける。


「私たちは薬師よ! ここに幻の薬草が生えているとわかっているのに無視なんてできない!」

「何を綺麗事を言っているの! あんたがどうして薬師になったのかは知らないわ! 私はお金持ちになれるから薬師になったの! 多くの薬師は私と同じことを考えてる! 幻の薬草が手に入れば金になるかもしれないけど、簡単な任務を完了するだけで莫大なお金が入るの。見つかるかわからないものに時間をかけたくないわ」


 任務というのは、リディアスを落とすことだと思われる。横に座るリディアスは「任務完了なんて一生無理だ」と呟いた。


 少し離れた場所に立っているメイドや、護衛の兵士にもノーラさんたちの声は聞こえているようで、みんな苦笑している。


「あの人、本当に薬師の資格を持っているのかしら」


 多くの薬師と言うけれど、コニファー先生や旦那様も、お金儲けのために薬師になったわけじゃない。

 私の場合は身を守るためだったけれど、今は違う。一人でも多くの人を助けられる薬師になりたい。元第四王女だったから授けてもらえた力は、お金儲けのためじゃない。


 我慢できなくなって、私はその場に座ったまま叫ぶ。


「あの! 少なくとも私や私の師匠たちはお金儲けのために薬師になっていません! 薬師代表みたいな発言をするのはやめてください!」

「……っ!」


 私の声で自分たちの会話が聞かれていたことに気がついた女性は、明らかな作り笑顔を浮かべて近づいてくる。


「ミリル様、誤解です! 見つからないのでイライラしてしまったんです! 一生懸命薬草を探しましょうね!」


 ヘラヘラ笑う女性を睨みつけると、彼女は私からリディアスに視線を移す。


「リディアス様、話を聞いてください! 私は本当に薬草を探しているんです」


 まだ誤魔化せると思っているの?

 さすがに無理でしょう。


 リディアスは失笑して口を開く。


「そうか。なら、俺に話しかけずに無言で薬草を探すべきだ」

「……わかりました」


 女性はがっくりと肩を落として、私たちから離れていく。

 ノーラさんはまだしも、もう一人の女性は何がしたかったんだろう。


 本当にレイティン殿下はこの人たちで、リディアスを落とせると思ったんだろうか。それが一番の謎だった。


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