14 ハニートラップ? ②
「リディアス様、これは幻の薬草でしょうか?」
「俺は薬師じゃないんだ。あなたがわからないのにわかるわけないだろ」
薬師たちに絡まれて鬱陶しそうにしているリディアスから離れ、私は真剣に薬草を探し始めた。広大な土地であることと、普通の草と見分けがつきにくいため、諦めそうになりながらも探していると、ポーチの中でシイちゃんが光った。
どうしたのか聞きたいところだけど、他人がいる前では無理だ。
「シイちゃん、ごめんね。急ぎじゃなかったら、話はあとでもいい?」
『わかった』は一回。『嫌だ』は二回光ってもらうことに決めていて、シイちゃんの返事は一回だった。
もしかしたら、シイちゃんは薬草の在り処を教えてくれようとしているのかもしれない。だけど、シイちゃんの力を借りることを私が嫌がると思ったのかな。
シイちゃんに頼ってばかりじゃ駄目。
そう決めた時、薬師の一人が近づいてきた。
この人が近づいてきていると教えてくれたのかな。
「ミーリル様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
吊り目気味のせいか、気が強そうに見える若い女性は私の隣に座ると、私の手元を見ながら話しかけてくる。
「薬草は見つかりましたか?」
「いいえ。そちらはどうですか?」
相手の爵位はわからないが、確実に年上だということもあり、敬語で返した。
黒く長い髪を後ろで一つにまとめた女性はため息を吐く。
「見つけたいと思うんですが、他にやらないといけないことがあるんです」
「あなたは本当に薬師なんですか?」
薬師を名乗っているだけで、ハニートラップをかける人だと思っていた。でも、薬草のほうが気になっているような気がして聞いてみると、彼女は首を縦に振った。
「もちろんです。資格証も持っていますよ」
そう言って薬師の証明になる手のひらに載るサイズの資格証を見せてくれた。名前はノーラさんで、年齢はやはり年上だった。
「リディアスにちょっかいをかけているのは、命令か何かですか?」
「……はい」
ノーラさんは小さく息を吐いてから続ける。
「今、必死にリディアス様を口説こうとしている女性も、あるお方に頼まれたのですが、今となっては本気で口説こうとしているようです」
「ど、どういうことですか?」
「リディアス様は素敵ですからね」
最初は仕事だったのに、今は違うということかしら。リディアスは外見はすごく整っているし、性格もハマる人にはハマるものね。
「どうして、私にそんな話をするんですか?」
「薬師としてお話してみたかったんです」
「私とですか?」
「はい。コニファー先生のお弟子さんということで、あなたは薬師界でかなり有名なんです」
「そ、そうなんですか?」
「はい。あんなにすごい薬を作れる人はいません。その方の唯一の弟子なんですから、私たちにとっては憧れの人です」
「そ、そんな!」
予想外に褒められて笑みがこぼれそうになるのを必死にこらえて尋ねる。
「あなたは乗り気じゃないみたいですけど、どうして断らなかったんですか?」
「フラル王国には薬草の研究所がありまして、そこは王家の支援でなんとか成り立っているのです。ある日、レイティン殿下から手紙が届き、言うことを聞かなければ、支援を打ち切ると言われまして……」
「ええっ!?」
レイティン殿下にそんな権限はないはず。ノーラさんたちはそれを知らないから、話を真に受けてしまったのね。
「もう一人の方も同じ理由ですか?」
「いいえ。彼女は同じ研究所の人間ではありません」
「リディアスを落とさなければ、研究所の支援は打ち切りになるとでも脅されているのかもしれませんが、そっちはなんとかしますので、一緒に薬草を探しませんか?」
「ほ、本当ですか!?」
目を輝かせたノーラさんに、私は大きく頷いた。
フラル王国の国王陛下はレイティン殿下を自由にさせすぎだわ。ハピパル王国の国王陛下に相談してみよう。




