13 ハニートラップ? ①
草原に入る許可をお父様が取ってくれたので、日にちを調整し、旅行の日まであと2日となった日の夜のことだ。
シイちゃんが何か言いたいことでもあるのか、そわそわしていた。眠りたい気持ちもあったけど、そのまま放っておくわけにもいかない。シイちゃんと話をするために、机の上に紙を広げて、その上にシイちゃんを置いてみた。
「何か話したいことがあるの?」
『ダイニオウジガ、ミリルガソウゲンニイクトシッテ、ジブンノタメニ、ヤクソウヲサガシニイクノダトオモッテルヨ』
「ど、どういうこと? もしかして、幻の薬草を探して、彼にあげると思ってるとかじゃないわよね?」
『ソレガザンネンナガラソウミタイ。ツキビトタチハ、ソウジャナイトオモウッテイッテクレテルケド、キコエテナイミタイ』
「ポジティブ思考は許せても、人の話を聞ける人になってほしいわ!」
『アアイウタイプノニンゲンハ、ナニヲイッテモムダナキガスル』
シイちゃんでさえも諦めてしまった。よくない気もするけど、第二王子だから国王になるわけでもないし良いと思ってるのかな。
レイティン殿下もあまりにも酷ければ、私の元家族のように権力を失うことになる。それをわかっていないのかしら。
まあ、思うだけなら自由かしらね。
「シイちゃん、レイティン殿下が旅行先の草原まで来るということはないわよね?」
『ソンナコトハサセナイ。シイハ、ミリルタチト、ヨイオモイデヲツクル』
「ありがとう」
フラル王国の国王陛下は善意でシイちゃんを貸してくれているんだもの。残された期間は楽しく過ごそうと約束して、その日は眠りについた。
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2日後の早朝、私たち家族と使用人や騎士たちと共に、家を出発した。馬車の中で向かいに座るお父様が口を開く。
「今日、草原に行って薬草を探すことにするが、フラル王国の薬師の二人も草原に入るとの連絡があった」
「わかりました」
フラル王国の薬師の人と話をしたことがないから、迷惑にならない程度に話をしてみたい。薬草を探している時は邪魔になるだろうから、草原を出てから話しかけてみようかな。
すると私の横に置いた紙の上に座っていたシイちゃんがコロコロと動く。
『ハニートラップニキヲツケテ』
「ハニートラップ?」
『ダイニオウジハ、リディアストミリルノナカヲヒキサキタインダ』
私とリディアスは顔を見合わせたあと、シイちゃんに視線を戻す。
「私かリディアスを誘惑してくるってこと?」
『ウン。リディアスヲダヨ』
「リディアス、ちょうどいい。引っかからないための訓練だと思って接しなさい」
「承知しました」
リディアスが頷いたのを確認して思う。
薬師じゃないのなら残念だ。でも、スパイと話をしてみたいという気持ちもある。リディアスの私への過保護っぷりは相変わらずだし、ハニートラップにかかるとは思えない。スパイの反応を見てみたい。
馬車の中では、そう呑気に思っていたのだけど、実際に会ってみると話したくなくなった。
「リディアス様にお会いできて光栄です! お噂は聞いておりましたが、実物は思っていた以上に素敵です!」
「ずっとお話したかったんですぅ。一緒に薬草を探しませんか?」
私たちが草原に入ると、見た目は可憐で可愛らしい女性が近づいてきた。二人を見た瞬間、レイティン殿下への殺意が一瞬だけ湧いたが、すぐに冷静になる。
リディアスが引っかかるわけない。大丈夫! 今日はリディアスだけじゃなく、平静さを保つための私の訓練でもあるんだわ。
「シイちゃん。薬草を探そう!」
コニファー先生からもらった、幻の薬草のイラストを握りしめ、ポーチの中のシイちゃんに話しかけた。




