11 旅行の行き先 ②
「まあ! 家族で旅行なんて良いわねぇ」
薬草をすりおろしながら、家族旅行の話をしてみると、コニファー先生は笑顔で続ける。
「二泊三日となると、そう遠出はできないけれど、一つに絞れば観光地をゆっくり回ることはできそうねぇ」
「コニファー先生のお奨めの場所はありますか?」
「私も最近は出かけていないから、ここというのはすぐには思い浮かばないわねぇ」
「もし、良い所が思い浮かべば教えてください」
今すぐという意味ではなかったけれど、コニファー先生は少し考えてから口を開く。
「観光地ではないのだけれど、行ってみたい所はあるわねぇ」
「どんな所ですか?」
「幻の薬草が生えている所よ」
「幻の薬草?」
初耳だったので聞き返すと、コニファー先生は話し始める。
「ここから馬車で半日で行ける所に大草原があるの。一般に生えている草にまぎれて、幻と言われている薬草が生えているらしいのよ」
「大草原! 幻の薬草!」
想像するだけでなんだかワクワクする。みんなでのんびりピクニックも素敵かも! のんびりするのも大事だし、飽きたら幻の薬草を探すという宝探しもできるわよね!
浮かれた気持ちになってすぐに、問題があることに気がついた。
「その草原は許可なしに入ってもいいものなんでしょうか」
「そういうわけにはいかないの。領主が管理しているものだから、許可がないと不法侵入になってしまうのよ」
「そうなんですね。許可を取るのは難しいんでしょうか」
「領民はわりと簡単らしいけど、違う領の人間は難しいと聞いたわ」
幻の薬草を見つけられたら、かなりの高値になりそうだものね。それなら、自分の領民に見つけさせることを優先する気持ちもわかる。
難しいだけなら、お父様に頼んでもらったら、許可を取ってもらえるかしら。
「ちなみにその草原はどこの領にあるんですか?」
「エルゼペット侯爵領よ」
エルゼペット侯爵は、お父様と仲も良くないが悪くもないと言ったところね。
「ちなみに幻の薬草で薬を作ったら、どんな効能があるんですか?」
「どんなに重い病気でも治ると言われているわ」
「それは……、欲しがる人が多いでしょうね」
「侯爵が管理する前は草原を荒らす人もいたらしいわよぉ」
幻の薬草を欲しがる人は、お金のためだけの人もいるんでしょうね。本当に薬を必要としている人に渡せるようになったらいいんだけど……。
「そろそろ出来上がりかしらねぇ」
話している内に時間が過ぎて、コニファー先生が鍋の蓋を取った。
今日は腹痛の薬を作っていて、コニファー先生の鍋の中は綺麗な緑色になっている。私の鍋はというと……真っ黒だった。
しかも、表面には人の顔のようなものが浮かんでいて不気味でしかない。しかも苦悶の表情だから余計にだ。
相変わらず、ゴプゴプと音を立てているが、それは気にしない。
「せめて笑顔だったらなあ」
「そういう問題じゃないと思うわ」
コニファー先生が呆れた顔をして私を見つめた時、鍋の中身が苦悶の表情から笑顔に変わった。
「せ、先生! 見てください! 笑顔になってます!」
「小分けしたら一緒よねぇ」
そう言うと、先生は容赦なく笑っている部分にレードルを入れて、液体をすくいあげたのだった。