8 ワガママな王子 ③
応接室のソファに座ったレイティン殿下はいつ腹痛に襲われるかわからないため、ずっとお腹に両手を当てたままだ。それだけ見ると気の毒に思えるけれど、シイちゃんをここまで怒らせるくらいだから、私たちが知らないだけで、他にも良くないことをしているのだと思う。
親が立派な人であっても、必ず子もそうなるとは限らないのね。
王太子殿下はまともみたいだし、彼だけがワガママに育てられたのかも。
いや、王家だからって、ちゃんとした人間になるかは限らないか。私を含む元家族は普通の王族ではなかった。
「お前は元第四王女なんだろう。しかも災厄の」
「災厄と思われていましたが、結果は逆だったんです」
レイティン殿下は私に尋ねてきたが、お父様が先に答えてくれた。
「災厄じゃないか。だから滅んで、うちの家が王家になったんだろう?」
そう言われてみればそうかもしれない。
そう思って苦笑すると、レイティン殿下は勝ち誇った顔をして続ける。
「さっき、僕に薬をくれようとしていたけど、そんな女の作った薬を飲む人間なんているわけがない。みんな、お前の正体を知らないから飲めるんだ」
薬師の資格を取ったことは一部の人間にしか教えていないが、フラル王国の国王陛下には伝えていたので、私が薬を作っている話は陛下から聞いたのでしょう。
口止めしていたわけじゃないし、この部屋にいる人間は私の正体を知っている人たちだから良いけれど、この場で話さなくてもいいことを話すということは、この人は空気の読めないおしゃべりな性格らしい。
「お言葉ですが、正体を知っている人も飲んでくれています。それからレイティン殿下、私は第四王女ではありません」
口が軽そうだから、ここはしっかり否定しておく。今の私は第四王女ではないのは確かだからだ。
「……そうか。秘密だったな」
レイティン殿下はふんぞり返ってソファに背を預けると、態度と同じく偉そうな口調で話す。
「まだ僕は子供なんだ。口が軽いのは許してくれ」
それ、開き直って言うことではないですよ。というか、直すつもりもないですよね。
呆れた気持ちを表に出さないように笑顔で誤魔化す。
「ところでレイティン殿下、我が家に訪問していただくことは大変光栄なことではあるのですが、このことは、国王陛下はご存知なのですか?」
こちらからも確認は入れているが、お父様は念のために確認した。すると、レイティン殿下は焦ったように視線を彷徨わせる。
「さ、さあ、どうだったかな」
やっぱり何も言わずに勝手に来たみたいね。
お父様は小さく息を吐いて口を開く。
「国王陛下には書状を送らせていただきました」
「なんだって!? そんなことをしたらここに来たことがバレてしまうじゃないか!」
レイティン殿下は血相を変えて立ち上がると、話しかけたお父様を指さして叫ぶ。
「余計なことをしやがって!」
「なんと言って別行動をされたのかはわかりませんが、いずれは明るみになることだと思いますよ」
「うるさい! ここにいても腹痛は起きるし不愉快だ! もう帰る!」
レイティン殿下が扉を乱暴に開けて部屋を出て行くと、シイちゃんがポーチの中で『カエレ、カエレ』と言わんばかりに飛び跳ねた。このまま放っておくわけにもいかず、私たちは彼を見送るために追いかけると、エントランスホールにレイティン殿下の付き人が立っていた。
彼は私たちを見ると、深々と頭を下げる。
「殿下が失礼なことをしてしまい、誠に申し訳ございません」
「いや。こちらも挑発的な発言をしてしまった」
お父様と一緒に付き人に詫びたあと、私はここに来る前に取って来ておいた腹痛に効く薬を手渡す。
「よろしければ、殿下のお腹が痛くなった時に飲ませてあげてください。必ず効くとは思いますが、私の作った薬ですので無理に飲んでいただく必要はありません。いらないとおっしゃるようでしたら、ほしい方にあげてください」
「ありがとうございます。ミーリル様はあの有名な薬師であるコニファーさんの一番弟子だとお聞きしております。私も含め、多くの人間がこの薬を欲することでしょう」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。あ、違法ですから転売はしないでくださいね」
「もちろんでございます」
付き人は嬉しそうな顔で頷くと、一礼して去っていったのだった。




