7 ワガママな王子 ②
「オレは悪くないからな」
フラル王国の第二王子殿下であるレイティン殿下は、開口一番にそう言った。
まだあどけなさの残る可愛らしい顔立ちで男性の体形では小柄な少年だ。
パーマのかかった金色の髪に、透き通った湖の青のような綺麗な瞳。白い肌もツヤツヤでとても羨ましい。
出迎えてすぐにこの一言だったので、呆気にとられた私たちだったが、すぐに我に返って笑顔を作った。
国王陛下はすごく良い人そうだっただけに、レイティン殿下の態度は予想外だった。彼の側近である中年の男性も困った様子だ。
気に入らないのか、ポーチの中に入っているシイちゃんがモゾモゾと動く気配を感じた。
そして、その瞬間、レイティン殿下がその場に座り込んだ。
「お腹が……! お腹が痛い!」
何か原因がない限り、腹痛が襲うのは神様からの罰だから、シイちゃんが何らかの形で神様に報告したのかもしれない。
いや、普通に腹痛の可能性もあるし尋ねてみる。
「あ、あの、よろしければ腹痛によく効くお薬があるんです。飲んでみませんか?」
「そんなものはいらない! それよりも石を渡せ!」
家族や使用人総出でお出迎えしていたので、私の申し出を断ったレイティン殿下を、みんなは眉尻を下げて見つめた。
渡せと命令されたのだから、渡さないといけないわよね。
「承知いたしました」
ポーチの中からシイちゃんを取り出すと、いつもならばきらりと光るはずなのに、何の反応もない。
第四王女が生まれていない時の王家とは、ほとんど関わることのなかったシイちゃんだから、石のふりをすることは得意らしい。
石のふりというかまあ、石なんだけど。
シイちゃんを差し出すと、レイティン殿下は私から奪うようにして受け取ると、脱力したような表情になった。
「ああ、やっぱりこれがあると楽だな。ただの石にしか見えないのに」
レイティン殿下はすっかり元気になったようで、勢いよく立ち上がると口元に笑みを浮かべてそう言った。
「応接にご案内いたします」
お父様が声をかけると、レイティン殿下は鼻で笑う。
「この石が手に入ったんだ。ここにはもう用はない」
そう言うと、レイティン殿下は踵を返して歩き出した……のだが、私たちが反応する前にまた座り込んだ。
「い、痛い! どうしてだ!? どうしてお腹が痛いんだよ! 石を持ってるのに!」
どうやらシイちゃんは彼のことが本当に気に入らないみたい。私の元家族が王家の時は任務のようなものだから助けていたけど、今はイレギュラーな事態だから、好き勝手させてもらっているのかもしれないわ。
「許可なく勝手に持ち帰ろうとされたからでしょう」
「誰の許可がいるんだ! 僕は王子でこの石の持ち主だ!」
「あなたのものでもあるかもしれませんが、あなたのお父上である国王陛下の許可がなければ駄目なのでしょう」
お父様は話しながら近づいていき、床に倒れてもがいているレイティン殿下に向かって手を差し出す。
「うう……っ、誰がお前の助けなどっ」
「石を返してください」
「なっ! これでいいんだろっ!」
勘違いしたレイティン殿下は顔を真っ赤にしたあと、シイちゃんをお父様に投げつけた。
「ありがとうございます」
シイちゃんを撫でながらお父様が礼を言うと、レイティン殿下の表情が和らいだ。
「お腹が……痛くなくなった」
「それは良かったです」
このままお帰りくださいと言いたいところだけど、そういうわけにもいかない。
立ち上がったレイティン殿下を促し、私たちは応接室へと向かったのだった。




