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6  新しい家族

 お父様たちが私を捜していると知ったのは、私が学園に通い始めた頃だった。ハピパル王国では6歳から学園に通うようになる。フラル王国も同じだったけれど、私は病弱だったから学園に通うことはできなかった。ここに来てすっかり元気になった私は、初めての学園生活に心を躍らせていた。

 そんなある日、怪しい人物がいると学園長に守衛から連絡があり、学園長は自分の護衛を使ってその人を捕まえ、警察に引き渡した。警察の取り調べの結果、怪しい人物は私のことを調べようとしていたとわかり、警察から、カーク様に連絡があったと、夕食後の談話室でカーク様が教えてくれた。 


「怪しい人間はフラル王国の情報屋だった。警察には話さずに私にだけ話すと言っていたんだが、王家の事情はある程度、把握はしていてミーリル殿下が生きているか調べに入ったと言っていた。それから、子供を森に置き去りにするなんて人間のやることではないと憤っていた」

「なら、どうして私について聞いて回っていたんでしょうか。放っておいてくれたら良いのに」

「さっきも言っただろう? ミーリル殿下が生きているか調べたかったんだ」

「それは……、私を連れ戻すためですか?」


 そうだったとしたら嫌だなと思いながら尋ねてみた。


「雇い主側はそのつもりのようだが、情報屋はミーリル殿下が幸せに暮らせているか知りたかったと言っていた」

「あ、あの、私はとっても幸せに暮らしています!」


 両手に拳を作って言うと、カーク様は微笑む。


「彼もミリルが学園に通っている姿を見てそうだと感じたみたいだ。ミーリル殿下は見つからなかったし、怪しいと思っていた少女は別人だったと答えると言っていた」


 善意ばかりで動いてくれる人ばかりじゃない。きっと、口止め料も払ったんでしょうね。迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないわ。


「ミリル。君は被害者なんだ。もし、何か考えるとするならば、また他の情報屋が現れないとも限らない。警戒を怠らないようにしなさい」

「わかりました。……あの、お父様のせいで、カーク様にご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 謝ると、隣に座って黙って話を聞いていたリディアスが怒りだす。


「ミリルはミーリルじゃないんだから、フラル王国の国王陛下をお父様と呼ぶのはやめろよ。お前の父さんは、俺と同じだろ!」

「リディアス! 妹のことをお前と呼ぶのはやめなさい!」


 カーク様の隣に座っていたレイゼル様が叱ると、リディアスは頬を膨らませる。


「だって、父さんのことをカーク様って呼んで、フラル王国の国王陛下をお父様って呼ぶんだ。それなら、俺たちは家族じゃないって言ってるようなもんだろ!」


 リディアスは言いたいことをはっきりと言う人だ。感情の変化が乏しく、人の気持ちを読めない私には、こうやって感情をぶつけてくれることは、とても有り難かった。


「教えてくれてありがとう、リディアス。そうよね。私にできることって、今はこれくらいだもの。だから、私、これからカーク様のことをお父様、レイゼル様のことをお母様って呼ばせてもらうわ!」

「俺のことはお兄様な」

「うん! お兄様、ありがとう!」

「おう」


 笑顔でお礼を言うと、リディアスは満足そうに笑うと続ける。


「お兄様が妹と遊んでやろう」

「うん! 遊んでください!」

「よし、行くぞ。今日は俺の秘密基地に連れて行ってやる」

「本当に⁉」

「ああ。二人だけの秘密だからな」

「うん、お兄様と私だけの秘密!」


 手を繋いで走り出す私たちに、お母様が叫ぶ。


「もう夜なんだから、外に出ちゃ駄目よ! それから、廊下を走っても駄目! ちゃんと前を見て歩きなさい! リディアス。あなたは兄なんだから、ミリルの歩幅に合わせるのよ?」

「はい!」

「ありがとうございます、お母様!」


 手を繋いでいないほうの手で手を振ると、お母様はなぜだか泣き出しそうな顔になった。談話室から少し離れると、リディアスが微笑む。


「母さん、喜んでたな」

「そうかな? 私には悲しそうな顔に見えたわ」

「違うって。母さんはミリルにお母様って呼んでもらえて嬉しくて泣きそうになったんだ」

「そうなの? それなら嬉しいな」


 九歳と七歳の頃の私たちは、本当に仲の良い兄妹だった。血の繋がりはないけど、お互いに異性としての意識はなかった。

 そして、私たちが成長している間にも、フラル王国の王家は病気が治ったかと思えば、事故で大怪我を負うなど不幸に見舞われる日々が続いていた。

 フラル王国の王家は未だに私を捜していたけれど、私を助けてくれた人たちが彼らに密告することもないし、向こうも表立って捜せない分、私が見つかる可能性は低かった。

 それに、見つけられたとしても私を国に戻すためには、ジャルヌ辺境伯家やハピパル王国の王家に全てを話さなければならない。

 お父様たちは真実を知っているけれど、そんな話は今初めて聞いたと言って、非人道的行為をしたフラル王国の王家を潰そうとするでしょう。そして、さすがにフラル王国の王家側だってそうなることくらいわかるはずだから、そんなことは絶対にできない。

 このまま、私はフラル王国の王家が滅びる様子を傍観させてもらおう。

 だって、私は捨てられたの。

 酷いことをされたんだから、彼らのことを助けてあげる義務はないよね。


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