3 下敷きになった令嬢 ①
次の日、シイちゃんと一緒に登校して席に着くと、例の令嬢が話しかけてきた。
金色の長い髪をツインテールにしたルワナ・フェルスタッペ侯爵令嬢は大柄で、とても整った顔立ちをしている。彼女とは今年、同じクラスになったばかりだが、リディアスが私のクラスに来るたびに近寄っては話しかけていた。そのこともあって、彼女の取り巻きは「ルワナ様とリディアス様が並んでいると絵になりますわぁ」と、私の前で話をしていた。
そのことについて、私は何も言わなかったし、言う気にもならなかった。だって、美男美女が並んでいると絵になるのは間違っていないもの。それに、美女でもないのにリディアスに選ばれた私は、性格が良いということなんじゃないかしら。
リディアスからは自分で言うなと言われそうだけれど、そういうことにしておく。だって、兄妹として育ったからと言って恋愛感情を持つかどうかはわからないものね!
「……さん! 聞いていらっしゃる⁉」
「申し訳ございません! 何でしたでしょうか!」
「今度、わたくしの家で茶会を開こうと思っていますの。よろしければいらっしゃらない?」
ルワナ様は笑みを浮かべているつもりだろうけれど、目は全く笑っていない。しかも、後ろに立っている取り巻きたちは私を睨みつけている。
「申し訳ございませんが、その日は用事がありまして」
「まだ日にちは言っていないのだけれど……」
「学園が休みの日は、習い事や両親やリディアスと過ごす予定が入っていますので、本当に申し訳ございません」
にこりと微笑んで、ルワナ様が反論してくる前に続ける。
「フェルスタッペ侯爵令嬢のお茶会に誘われたい方はたくさんいるでしょうね! 違う方をお誘いくださいませ」
「そう、そうね! あなたを呼ばなくても困ることはありませんからね!」
ルワナ様は笑みを引きつらせながら答えると、くるりと背を向けて自分の席に戻っていった。
その日の昼休み、食堂で友人と昼食をとっていると、膝の上に置いていたポーチが急に軽くなった気がした。シイちゃんが移動すると軽くなることはわかっていたので、何かあったのかなというくらいにしか思っていなかった。
食事を終えて談笑をしていた時、ルワナ様の取り巻きが泣きながら食堂に入ってきたかと思うと、一直線に私の所に向かってきた。
「あなた! 自分の机の上になんて仕掛けをしているのよ!」
「私の机の上?」
「そうよ! ルワナ様があなたの机の中を触ろうとしたら、いきなり巨大な石が落ちてきて、ルワナ様は下敷きになっているの!」
石だとわかった時点でシイちゃんの仕業だとわかった。巨大な石が落ちてきたというので、怪我はないか心配になったけれど、相手がシイちゃんなら大丈夫でしょう。
「仕掛けなんかしていないわ。大体、巨大な石だと言うのなら目に見えているはずでしょう。それなのに下敷きになるようなことをしたの?」
「違うわよ! あなたの机の中を!」
「どうして机の中を触ろうとするの? 人の机の中を勝手に触るなんて非常識だと思うのだけど」
言い返すと、取り巻きは顔を真っ青にした。それと同時に辺りが静まり返っていることに気がつき顔を動かす。私たちは食堂にいる人の注目の的になっていた。
「とにかく見てくるわ!」
付いてこないルワナ様の取り巻きを置いて、私は急いで教室に向かった




