45 石との意思疎通
私たちが家にたどり着いてしばらくすると、ビサイズ公爵家にノンクード様が送り届けられたという連絡が入った。お兄様の予想通り、ビサイズ公爵閣下はノンクード様を受け入れたらしい。ジーノス様と一緒にいても悪影響しかないでしょうし、離れてみて改心できるか試してみるのかもしれない。
血の繋がりもなく、自分を裏切っていた相手の子供を受け入れるなんて、公爵閣下は心が広いわ。
私はノンクード様にそこまで優しくはできない。
お父様とお母様に今日のことを報告したあと、部屋に向かう途中でお兄様に話しかける。
「今日のお兄様はノンクード様に優しかったわね」
「自業自得ではあるけど、好きな人にあんなことを言われたらショックだろうなと思ったんだよ」
「お兄様がそんなことを言われるとは思えないけど、人の立場になって考えることは素敵ね」
「言われないように気をつけるけど、ノンクード様だってあんなことを言われたくて行動を起こしたわけじゃないだろ」
「そう言われればそうね。でも、ノンクード様の場合は気持ちを押し付けすぎだったんじゃないかしら」
苦笑して答えると、お兄様は難しい顔をして頷く。
「そうだな。俺も気をつけないと」
「……どういうこと?」
「自分の気持ちを押しつけないようにするってこと」
「そうね。お兄様の場合は愛が重いかも」
「……気をつけます」
「私は嫌じゃないわ」
何気なく答えた時、お兄様が驚いた顔をして私を見た。
そうだった。お兄様の好きな人は私だった!
シスコンとしての意味合いで言ったつもりだったけど、お兄様にしてみればそうではないわよね。
他の話題を探していると、お兄様が口を開く。
「ミリルに好きな人ができても、俺は相手に意地悪とかしたりしないし、ちゃんと幸せを願うから早めに言ってくれると助かる」
「……うん」
私にとって、お兄様以上に素敵な人はいないことはわかっている。本当の兄妹ならば生まれてこない気持ちが、私たちの場合は生まれてきてもおかしくない。そのことを頭で理解しているのに踏み出せない。本当に私は臆病だ。恋人になったあと、別れがくるかもしれないと思うと、この関係性が一番心地よいのだ。
ぎこちない雰囲気のまま、私たちはそれぞれ、自分の部屋に戻った。
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ここ最近の私はシイちゃんとの意思疎通を試みていた。
大きな紙に文字を書いて、その上にシイちゃんを置く。私が話しかけたことに対して、シイちゃんが紙の上で転がって答えてくれる。
「シイちゃん、私はお兄様のことをどう思っているのかしら」
シイちゃんはコトコトと転がって答えを返してくれる。
『それはミリルじゃないとわからない』
「ですよね」
意味のない質問をしてしまったことを反省したあと、今まで聞けていなかった質問をする。
「シイちゃんはどうして私のところに来てくれたの?」
その後、シイちゃんが教えてくれたのは、自分は国王かその家族に付くということ。国王が善良なら国王に、そうでなければ心が一番綺麗な王族に付くそうだ。普段は宝物庫で何もせずに眠っているだけだが、王家の人間が自分を持ち出した場合に力を発揮するそうだ。
第四王女の私は幸運をもたらす子供らしく、私の作る薬が生き物みたいになってしまうけど、美味しくて効果が強いのは、神様から私へのギフトなんだそう。
本当はフラル王国の国民のために使ってほしい力なのだけど、私の立場上、ハピパル王国の国民への恩返しとして使えば良いとのことだった。
シイちゃんが回答するには時間がかかる。そのため、気がついた時には寝る時間になっていた。
寝る準備をすることを伝えると、シイちゃんは最後にこんなことを教えてくれた。
『つぎに、ばかなことをかんがえたときには、レドリーけはおわり』
「どういうこと?」
レドリー家はフラル王国の王家の姓だ。
終わりの意味がわからなくて聞いてみると、シイちゃんは一生懸命動いて教えてくれる。
第四王女が災厄か幸運かを決めるのは神様で、シイちゃんの存在意義は王家を正しく導くこと。
更生できないのであれば、レドリー王家は王族という地位を失うことになるとのことだった。




