42 第三王女からの手紙
エイブランが送ってくれた報告書には、シエッタ殿下が私に接触しようとすると書かれていた。
数日後、シエッタ殿下から検閲があっても良いように、私がミーリルかどうかの確認ではなく、私とお兄様に会いたいので時間を作ってほしいと書かれた手紙が届いた。
フラル王国の王城に行くには数日はかかる。私もお兄様も学園に通っているので、普段の休みでは行く時間がないとお断りの手紙を送ったところ、それならば自分がそちらに向かうと返事があった。
『以前もお伝えしましたが警備の面などでの問題が出てくるので、それも承諾しかねます』と返事をすると、フラル王国とハピパル王国の国境付近にある森林公園で会えないかと返ってきた。
シエッタ殿下が指定した森林公園は大きな池と池を囲むように大きな道があり、軽食を楽しめる店が並んでいる。
その名の通り森林がある場所だが、整備された道から外れ、フラル王国に向かって道なき道を進んでいけば、国境を隔てる塀に行き当たる。
それは、私が保護された森にたどり着くということだ。
この場所を指定してきたのはわざとなのか。それとも国境付近で会いやすい場所だと思ったからなのかはわからない。
夕食後。部屋に戻ろうとした私に、お兄様が話しかけてきた。
「ミリル、シエッタ殿下の件だが、俺だけ行ってきてもいいぞ。断り続けてもしつこく言ってくるだけだろうし話をつけてくる」
「いいえ。私も行くわ。もういい加減に終わらせたいの」
私はお兄様を見上げて話を続ける。
「今までなんだかんだ言って、元家族に見つかるんじゃないかって怯え続けた。でも、そんなことはもう終わりにする。そうすることによって、今の王家を破滅に導ける気がするから。それに、伝えたいこともあるのよ」
「伝えたいこと?」
「ええ。家族総出で来るとは思えないし、シエッタ殿下に伝えてもらうことにするわ。それから、シエッタ殿下の話を聞くには、ある条件を満たしてからということを承諾してもらうわ。もし、それを拒否したらシエッタ殿下の話を聞かずに言いたいことだけ言って帰るというのはどう?」
「向こうはどうしてもミリルに会いたいだろうから、変な条件がついてても会おうとするだろうけど」
お兄様は頷くと、条件について聞いてきた。だから、お兄様とシエッタ殿下と会うことになった時のことを想定した簡単な打ち合わせをして部屋に戻った。
会うと決めたけれど、これで良いのかわからない。不運が重なって、連れ去られたりしたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎる。
すると、視界の隅で何かが光った気がして振り返った。ジュエリーボックスの中で鎮座しているシイちゃんが、キラキラと光っている。
シイちゃんの力なら、私が何もしなくてもフラル王国の王家を破滅に導ける。でも、そうしないのは、シイちゃんが自分任せにし過ぎることは良くないと思っているからだと思う。
「あんな人たちに弱気になるなんて駄目よね! やってやるわ! 昔、嫌なことをされた分のお返しだってしてやるんだから!」
すぐ弱気になってしまうのはいけないことよね! 迎え撃つって決めたんだもの。
そう宣言すると、シイちゃんはジュエリーボックスの中で頷くように何度も飛び跳ねた。




