40 幸せの終わり(ジーノス視点)
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このお話はジーノス視点になります。
お金に苦労しなくて済むと安心できたのは、ほんの束の間だった。ゼカヨダ病の薬はすでにいきわたっている上に、コニファーという薬師と組んだジャルヌ辺境伯家が薬を格安で売り始めたせいで、エノウ伯爵家から薬を買ってくれなかったからだ。
薬の転売は違法だということはわかっていたが、それを本当に欲している人間は、そんなことなど気にせずに買うものだ。だから、不足しているだけでなく、良い薬であれば、必ず高値で売れると思っていたのに計画が狂ってしまった。
ジャルヌ辺境伯家が裏で手をまわして、エノウ伯爵家をはめたんだわ! こんなことに引っかかるエノウ伯爵家も本当に馬鹿ね。そして、それは私も同じだわ。そんなに簡単に上手くいくものではないと警戒しておくべきだった。
大きなため息を吐いた時、ノンクードが私の部屋にやって来た。
笑みを浮かべていたノンクードだったが、私の浮かない顔を見て心配そうな顔になる。
「ママ、どうかしたんですか。とても辛そうな顔されているので心配です」
「ああ、ノンクード。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。あなたの顔を見たらかなり落ち着いたわ」
微笑んで言うと、ノンクードは安堵したように笑みを浮かべて頷いた。
この笑顔を見ると、本当に安心できる。ノンクードはハリーにそっくりだ。この子を生んで本当に良かった。
公爵家から追い出されたショックで、今はまだ元気がないことは確かだが、シエッタ殿下と結婚できるようになれば、また元気になるはず。贅沢な暮らしを取り戻すためにも、私がこの子のために頑張らなくちゃならないわ。
「そうだ、ママ。手紙が届いたので持ってきました」
ノンクードはそう言って、持っていた白い封筒を私に差し出した。受け取って確認してみると、フラル王国の王家の紋章の封蝋が押されていることがわかった。
やったわ。やっと返事がきたのね! これで、私たちは幸せになれる!
ノンクードを抱きしめようとした時、ハリーがやって来たので、私は彼に笑顔を向けて話しかける。
「ハリー! どうかしたの?」
「……話があるんだけど」
「何かしら」
ハリーは少し躊躇ったあと、重い口を開く。
「ジーノス、悪いけど僕と別れてくれないか」
「……え?」
一瞬にして頭が真っ白になり、私は手に持っていた手紙を床に落とした。




