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【書籍発売中・コミカライズ連載開始】捨てられた第四王女は母国には戻らない WEB版  作者: 風見ゆうみ
第一部

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39 新たな目標

「どうしたら、こんなに美味しい薬ができるんだろう。こんな薬を飲んだのは初めてだ」

「でも見た目が酷いよな。いや、見た目だけじゃないか。俺、この薬を飲もうとしたら幻聴が聞こえたんだけど」

「わかる。はやくのんでぇ。とかだろ?」

「そうそう。そんなことを言われたら生きているのかと思って余計に飲めないよな」

「こんな薬を作れるなんてさすがミリルだなぁ」


 褒められているのかどうなのかわからない。

 キララに薬を渡した三日後、体調が良くないと言っていた国境警備隊の人たちに私が作った体力回復補助薬を持っていくと、彼らは口々にそう言った。

 私を保護してくれた人たちのほとんどが、まだこの場所で働いているから、その人たちのために持ってきたのだ。ちなみに私の秘密を知らない人たちには、コニファー先生が作ったものを渡している。


「家族がゼカヨダ病だという人に薬を渡して来たわぁ。ゼカヨダ病の薬が高くなっていたから、格安でもらえて助かると言っていたわよ。でも、相場も昔よりもかなり安くなったみたいだけどねぇ」


 一緒に来てくれていたコニファー先生が笑みを浮かべて話しかけてきた。薬はもともと高いものだけれど、ゼガヨダ病の薬は値段が跳ねあがっていたせいで、貴族も買うことを躊躇する人がいたらしい。でも、私の家が薬を販売するようになってからは、狙い通りに一気に値段が下がったようだった。 

 私はすっかり忘れていたのだけれど、薬は薬師の資格を持った人しか売ることができない。無償で渡す場合も薬師の許可が必要だ。私の場合は、コニファー先生が作った薬をコニファー先生に許可をもらい、キララに無償で譲ったということになるので法には触れない。

 キララたちがその薬を転売しょうとしても、彼女たちは薬師ではないので、薬を売ったことが公になれば捕まるし、買ったほうも罪に問われるので買い取る人もいなかった。

 多くの薬売りの代行業者はジャルヌ辺境伯家に取引を求めてきたので、お父様のほうから、エノウ伯爵家からは絶対に薬を買わないようにと言ってもらっているから、彼女は無駄に薬を多く持っているだけの状態だ。


「キララはフラル王国で薬を転売するでしょうか」

「どうかしらねぇ。でも、フラル王国も薬は足りているのでしょう? なら、高い値段で買う人はいないんじゃないかしらぁ。それに、ハピパル王国の貴族が相手なら信用度も低いでしょうしねぇ」


 このままだとエノウ伯爵家は転校費用などで、お金がかかるだけになりそうね。


「ジャルヌ辺境伯家が商売しなければ、裏ルートを使って、ある程度の値段で売れていたんでしょうけど、そんなことになるまでは予想できないわよねぇ。ミリルの作戦勝ちといったところかしらぁ」

「周りの協力がなければ無理でしたから、私だけの勝利ではありません。コニファー先生もお手伝いいただき、ありがとうございました」

「あなたは主人の命の恩人ですからねぇ。これくらいさせてもらわないとぉ」


 そう言って、コニファー先生は微笑んでくれた時、私を世話してくれた女性が近寄ってきたので、そちらに顔を向ける。


「ミリル、このゲテモノもどきを正式に売るつもりはないの?」


 ゴポゴポとグラスの中で弾け飛ぶように動いている液体を見ながら、警備隊の人に尋ねられたので考える。


「そうよね。見た目は酷いけれど、ちゃんと効くのなら売り物にしてもいいんだよね」

「貴族を優先にして売ってみて、売れ残ったものを安く売ってもらえると助かるわ。平民には薬は高くて手が出ないのよね」

「あなたが薬師になったら多くの人が救われると思うわ。ねえ、ミリル。この機会に、あなたも薬師の試験を受けてみたらどうかしら」

 

 コニファー先生に背中を押された私は、薬師の試験に挑戦してみることに決めたのだった。

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