38 追い出された公爵夫人(ジーノス視点)
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この話はジーノス(ビサイズ公爵夫人)視点になります。
夫に珍しく執務室に呼び出されたと思ったら、彼は開口一番にこう言った。
「君と離婚することにした」
「……は? なんですって?」
言葉の意味がすぐには理解できず、私は聞き返した。夫は書類に目を落としたまま話す。
「離婚すると言ったんだ。郵便配達人に口止めをしてまで、フラル王国の王家に手紙を出すような妻は必要ない」
「べ、別に何も悪いことはしていないわ! 手紙を送っただけよ!」
「では聞くが、どうして侍女に手紙を頼まなかった?」
「そ、それはプライベートな話だからよ!」
「君はフラル王国の王家と関わり合いなんてないだろう。それにプライベートな話だなんて、何か弱みでも握ったのか?」
夫は少し間を空けたあと、書類から目を離し、私を睨みつけて続ける。
「それとも、ハピパル王国の内部情報でも売ったのか」
「違うわ! 何を手紙に書いたかなんて教える必要はないでしょう! とにかく、私は離婚なんて認めない!」
「そうか、わかった」
すんなり頷いてくれた夫に安堵した瞬間、彼はとんでもないことを言った。
「では別居しよう。君には愛人がいるだろう? 彼の元に行くといい。君が裏切り者である可能性がある限り、ビサイズ公爵家の敷地内に置いておきたくない」
そう言うと、夫は執務机の上に置いていた呼び鈴を鳴らして人を呼んだ。
「ちょっと待って! 考え直して! 離婚だなんて世間体が悪いわよ!」
「心配してくれてありがとう。だが、妻の浮気を許しているという時点で、すでに世間体は悪い」
「そ、そんなっ」
「馬鹿なことを考えずに大人しくしておけば良かったんだ。二日猶予をやる。その間に自分の足で出ていけ。出ていかないようなら、乱暴な手を使ってでも家から追い出す。ノンクードには私から話をしておく。一緒に付いていくと言うのなら連れていってやれ」
夫は話し終えると、執務室の中に入ってきた兵士に指示をして私を部屋まで追い返した。
何とか夫の機嫌を取ろうとしたけれど、彼は執務室で生活を始めてしまった。食事や飲み物は運ばれているみたいだが、私の眠っている夜中に行われていた。その間に私の荷物はメイドたちによってまとめられ、夫が指定した日に、私と私に付いていくと言ったノンクードは屋敷から追い出された。
行く当てのなかった私は愛する人である、ハリーの元に向かい、彼に「夫に追い出されたの。助けてちょうだい」とお願いした。彼は家の中には入れてくれたけれど、今までのように私に優しい言葉をかけてくれなくなった。
彼の家は木造の小さな二階建ての家で窮屈に感じる時もあるけれど、家族三人で暮らすには悪くない。
ノンクードの養育費で今はなんとか生活しているけれど、これじゃあ足りない。どうにかしてフラル王国の王家からお金をとらなくちゃいけないわ。
そう思っていた時、私に協力してくれたエノウ伯爵令嬢がやってきて言った。
「もうすぐ、高値で取引されている薬が大量に手に入るんです。その薬を売ってお金にしようと思います。両親に多少は渡さないといけないのですが、残りのお金は全てノンクード様にお渡しします」
調べてみたら、ゼカヨダ病の薬は一包だけで名の知れた店でドレスが買えるくらいの値段がするという。
「ノンクードを好きでいてくれてありがとう。あなたは本当に聡明な人ね」
エノウ伯爵令嬢に優しく微笑むと、彼女ははにかんだ笑みを見せた。




