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32 親友の婚約者 ②

 キララは学園では普通に私に接してきていて、パーティーでのやり取りは彼女の中ではすっかりなかったことになっているようだった。

 私もいちいちそのことを問うよりも話すほうが嫌なので、適当に相手をしていた。

 ソーマ様との話し合いの当日は彼の心を反映するかのように、待ち合わせ場所に行く道程の空は暗雲がたちこめていた。


「話をしなくちゃいけないと思ってはいたんだ。でも、もしかしたら状況が変わるかもしれないって、自分の都合の良いように考えるようにしていた」


 天然パーマだというクセの強い茶色の髪を後ろで一つにまとめたソーマ様は、いつもは明るくて笑顔を絶やさない人だ。

 それなのに、はす向かいに座っている彼は俯いていて、私たちと目を合わせようともしない。心配になった私が隣に座るお兄様を見ると、お兄様も辛そうな顔をしていた。

 仲の良い友人の元気がない姿を見るのは辛いわよね。私だって、ソーマ様のことは知らない仲ではない。だから、つい躊躇してしまう。


「あの……、話しにくいことでしたら無理に言わなくても結構ですよ」

「いや、話しにくいというか申し訳ないってやつなんだ。これ以上黙っていても意味がないし話すよ」


 ソーマ様は大きく息を吐いてから続ける。


「キララはノンクード様のことが好きだったんだよ」

「……それは今年、同じクラスになってからですか?」

「違う。キララとノンクード様はもっと前から知り合っているんだ」


 私とキララは三年前に同じクラスになり、それからはずっと一緒だった。でも、ノンクード様と同じクラスになったのは、私は初めてだった。気にもしていなかったけれど、キララとノンクード様は以前、同じクラスになっていたそうだ。

 その時からキララは密かにノンクード様に恋をしていた。でも、婚約者がいるから気持ちに蓋をしようと努力していたようだった。

 ソーマ様はキララのことが好きだったから、彼女の様子を見て、口に出さずとも彼女の気持ちに気がついたのだと教えてくれた。


「ノンクード様は色々な女性と浮き名を流していたから、キララもそのうち目が覚めるだろうと思っていたんだ。だけど、本当に人を好きになると、そう簡単に諦められないみたいで、キララはずっとノンクード様が好きだった。でも、好きなだけなら誰にも迷惑をかけるわけじゃないから黙って見守っていようと思った」


 キララは伯爵令嬢だけど、ソーマ様は子爵令息だ。その関係性も、彼がキララに強く言えない一因だったのかもしれない。

 お兄様は眉尻を下げて、ソーマ様に話しかける。


「教えてくれてありがとな。だけど、どうしてもっと早くに言ってくれなかったんだ」

「……彼女は友情も大切にする人だと思ってた。だから、ミリル嬢を裏切るだなんて思っていなかったんだ。本当にすまない」


 お兄様の問いかけにソーマ様は私に頭を下げたあと、両肘をテーブルにつき顔を覆った。


 こんなにも思ってくれる婚約者がいるのに、どうしてキララはノンクード様のほうが良いと思ったんだろう。私にはわからない彼の魅力があるんだろうか。

 たとえあったのだとしても、私は彼を好きになることはないし、キララの気持ちを理解しようとも思わない。

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