表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/114

3  王太子付きのメイドの考え (メイド視点)

 私はフラル王国の王太子殿下、ロブ様付きのメイドだ。目の前にある大きな天蓋付きのベッドには、顔を赤くして意識が朦朧としているロブ様、そして、そんなロブ様を心配そうに見つめる両陛下と城のお抱えである、お年を召したお医者様がいた。


「ロブの熱が下がらないのはどうしてなんだ!」

「陛下、お言葉ですが、子供は高熱を出すものです。解熱薬も飲ませましたし、そのうち熱も下がるでしょう。ミーリル様もそうでしたので心配なさらなくても大丈夫ですよ」

「うるさい! ミーリルの話を持ち出すな!」


 国王陛下は、すごい剣幕でお医者様を怒鳴りつけた。

 ミーリル様はつい先日亡くなった、第四王女でロブ様の二つ年上の姉だった。生まれた時から王家の不幸をすべて引き受けているかのような人で、ミーリル様だけが体が弱く、他の殿下たちは驚くくらいに健康で、彼らが行く場所の国民が雨を求めていれば雨が降り、晴れを求めていれば晴れるなど、驚くくらい運が良かった。

 でも、ミーリル様が亡くなってから王家はおかしくなった。娘のショックで精神的に参ったというわけではなく、今までのことが嘘のように、不幸に見舞われるようになったのだ。

 目の前のロブ様だけでなく、王女殿下全てが体調が悪いと訴えて寝込んでいるし、第二王女殿下はロブ様よりも厳しい状態にあるらしい。


「……ミーリルは幸運の存在だったというの? あの子がいたから、今までロブたちが元気でいられたということなの?」


 王妃陛下は涙を流しながら、国王陛下に話しかける。


「あなた……、まだ、間に合うかしら」

「……生きているはずだ。だから、ロブが生きているんだろう」

「でも、狼に襲わせるために匂いのする食料を置いてきたんでしょう? 夜のうちに襲われているんじゃないの? しかも日にちも経っているわ」

「アレが死んだら、この様子だとロブや他の娘たちも死ぬだろう。幸運がなくなるということだからな」

「そんな……!」

「大丈夫だ。すぐに見つけて、地下牢で飼育すれば良い」


  国王陛下は王妃陛下に優しく話しかけたあと、顔をこちらに向けて私を睨みつける。


「お前は外に出ていろ。そうだ。エイブランを呼んできてくれ」


 エイブランとは陛下の側近の名前だ。


「承知いたしました」


 慌てて私は部屋から出て、エイブラン様を呼びに行った。陛下の御学友だったエイブラン様は、卒業後、陛下の希望で側近になられた方だ。彼は執務室で仕事中だったが、すぐに切り上げてロブ様の部屋に向かってくれた。


 さっきの話は何だったんだろうか。飼育って何かしら。ペットでも飼うつもり?


 この後、どうすれば良いのかわからなかった私は、ロブ様の部屋の前の廊下で待つことにした。すると、部屋の中から悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。


「森の中に捨ててきたですって⁉」


 エイブラン様の声だった。すぐに陛下の怒鳴り声が聞こえてきたけれど、その後は耳を澄ましても、たまにぼそぼそと話し声が聞こえるだけで、はっきりとした会話は聞こえない。

 ミーリル様の遺体を確認したのはお医者様と両陛下だけだった。遺体を部屋から運んだのは兵士たちだし、ミーリル様の顔は知っているだろうから、ミーリル様の突然の死に、私も含めて多くのメイドは何の疑問も感じなかった。


 もしかして、ミーリル様は森の中に捨てられた? 


 廊下に立っていた兵士たちを見ると、私と同じ考えに至ったのか、驚いた顔をしている。

 兵士たちと顔を見合わせあった時、勢いよく扉が開いた。出て来たのはエイブラン様で私たちは知らないフリをしようとしたが無駄だった。


「話は聞こえていたでしょう」

「な、何の話でしょうか」


 兵士の一人が聞き返した。エイブラン様はいらだった様子で眉根を寄せて叫ぶ。


「すぐに森に行くんですよ! 暗くなる前に戻りなさい」

「も、森に行って何を……」

「死んだはずの王女を捜しなさい」


 兵士たちは戸惑ったようだったけれど、逆らうわけにもいかないのだろう。顔を見合わせて頷き合うと、自分たちの持ち場を離れていく。私はどうしたら良いのか迷っていると、エイブラン様に睨まれた。


「いいですね。今、聞いた話は他言しないように。誰かに話せば、どうなるかわかっているでしょうね?」

「承知いたしました」


 そんな大事な話なら、大きな声でしないでちょうだいよ! まさか、わざと大声を出したわけじゃないわよね? だって、死んだはずの第四王女殿下を捜さなければいけないんだもの。捜すものが何か教えてもらわなければ捜しようがないものね。

 でも、もう手遅れのような気がするわ。第四王女殿下がいなくなってから、何日も経っている。  

 小さな子供が森の中で生きていけるはずがない。

 それなのになぜ、エイブラン様は第四王女殿下を捜せなんて言ったのかしら? さっきの、国王陛下が言っていたことが関係するということ?

 まあいいわ。私は第四王女殿下が生きていようが死んでいようが、どちらでも良い。何も聞かなかった。それでいいのよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ