25 石の価値
そう思った時、お兄様が小袋を拾ってシエッタ殿下に差し出した。
「落としましたよ」
「まあ! ありがとうございます!」
シエッタ殿下はうっとりした表情でお兄様を見つめて続ける。
「何かお礼をしなければなりませんね」
「いえ、結構です」
「いいえ。お礼が必要ですわ」
シエッタ殿下がそう言うとすぐに、王妃陛下が叫ぶ。
「そうだわ。謝礼だわ! 謝礼を渡すと言えばいいのよ!」
「……そ、そうか。石を見つけてくれた人に謝礼を出せばいいんだな」
王妃陛下の案に陛下は頷くと、王太子殿下に話しかける。
「では、もう帰らせてもらうが、娘が落とし物をしたので、そちらの手配を後日させてもらう」
「承知いたしました。どんな落とし物でしょうか」
「それは……」
二人が話をしている間に、お兄様がシエッタ殿下に尋ねる。
「その小袋は大事なものなのですか?」
「ええ。中に石が入っているんです」
シエッタ殿下は笑顔で頷くと、お兄様を上目遣いで見つめて答えた。
「どんなものなのかお話をしたいのはやまやまなのですが、王家、もしくは本当に近しい人にしか教えてはいけないのです。もし、リディアス様がわたしの婚約者になってくださるのなら教えても良いのですが」
「別に教えてくださらなくて結構ですよ」
お兄様はそっけなく答えると一礼する。
「では、お元気で。お気をつけてお帰りください」
「え? いえ、でも!」
「おい、シエッタ。さっさと帰るぞ! 城の使用人たちも帰りを待ちわびているはずだ」
お兄様に何か言いかけていたシエッタ殿下に国王陛下はそう言うと、近くにいた私に視線を向ける。
「わざわざ養女にするのに、こんな醜い娘を選ぶとは、まるで豚じゃないか」
私は豚を見た時に可愛いと思うので誉め言葉ね。
「ありがとうございます」
微笑んでお礼を言うと国王陛下は鼻を鳴らし、シエッタ殿下を引きずるようにして停車している馬車のほうに歩いていく。
「私が国王陛下と王妃陛下にどんな風に見えているのか気になるわ」
動き出した馬車に手を振りながらお兄様に小さな声で話しかけると「たぶん、二人の好みじゃない顔に見えているんだろうな」と答えた。
見送りを終えたあとは王太子殿下に挨拶をしてから、お兄様と一緒の馬車に乗り込んだ。馬車が動き出すと、私は早速、お兄様に尋ねる。
「そういえば、お兄様。さっき、小袋をシエッタ殿下に渡したわよね。その時、石は入っているように感じた?」
「ああ。シイくらいの重みがあった」
「ということは、ダミーを中に入れてくれたのね」
私はリボンの間からシイちゃんを取り出してみた。すると、今日の朝よりも二倍ほどの大きさになったシイちゃんが、まるで誇らしげな様子でキラキラと輝いていた。
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数日後、石を見つけてくれた者には謝礼を出すという張り紙が繁華街に貼られているという話を聞いた。許可を得て貼っているものらしいので違法ではない。
ただ、謝礼金の額が大きいため、道端に落ちている石を拾うだけで「これは自分が拾ったんだ」「いや、私だ」などと揉め事になっているらしいから、近いうちに剥がされそうな気がする。
シイちゃんはかなり大きくなったので、特注でジュエリーボックスを買ってもらい、シイちゃんは現在、そこに蓋をあけられた状態で鎮座している。
やっと落ち着くべき場所に落ち着いたといった感じで可愛らしい。
「王家の秘宝かもしれないのに、あなたをここに置いておいていいのかな」
シイちゃんがいなくなったフラル王国の王族たちは、何度も事故に遭い、立ち往生している時間が長かった。彼らが通った山道で馬車の前後に大きな落石があった。左右は山の斜面のため馬車を動かすことができなかったから、石を退けてもらえるまで、王族たちはその場に留まるしかなかったのだ。
「シイちゃんだから落石だったのかしら」
一体、シイちゃんは何を考えているんだろう。新たな国王が現れるまで、私がシイちゃんを預かっておけばいいのかしら。
シイちゃんは言葉を話すことはできないので、目的はわからないままだ。でも、そのうちわかってくると信じて、戻って来た平穏を楽しむことにした。




