20 王家の石 ④
シイちゃんを磨きに来てもらった日の夜、拾得物預かり所の人から石を探している人が来たという連絡があったとお父様が教えてくれた。
「探しに来たのはシエッタ殿下の付き人らしい。誰が持ち帰ったか知りたいと言っていたそうだ」
「持って帰ったのが私だと知られてしまったんでしょうか」
「学園も警察も伝えていないと言っていたが、どうだろうな。金で動く人間はどこにでもいる。接触してくる可能性もあるから気をつけなさい」
「承知いたしました」
頷いたあと、シイちゃんをお父様に見せながら尋ねる。
「この石には何か秘密があるのでしょうか」
「そうだろうな。大事に持ち歩いていたというのなら、お守りなのかもしれない」
「幸運の存在だった私がいなくなって不幸が訪れた王家を石が守っているということですか?」
「その可能性が高い」
第四王女が災厄か幸運かという話を知っているのは、フラル王国の王家と、ハピパル王国の両陛下、そして、ジャルヌ辺境伯家の人たちだけ。
もしかしたら、フラル王国の国王陛下の側近は知っているかもしれない。でも今は、国王陛下の代わりに国の仕事をしていて忙しいでしょうから、石を探しに来ることはないでしょう。
私が相手をすることになるのは、フラル王国の王家なのか、それとも、石を探しに来たというシエッタ殿下の付き人なのかはわからない。
誰が来たとしても、この石は絶対に返さないわ。だって、シイちゃんは私と一緒にいることを望んでいるみたいだし、私を捨てた人たちに少しくらいは痛い目に遭ってほしいもの。
「ミリル」
お父様との話を終えて、部屋に帰る途中の廊下でお兄様に呼び止められた。
お母様と話をしてから、お兄様を意識し始めてしまったので、ぎこちなくならないようにしなくちゃ。
「どうかしたの?」
平静を装って話しかけると、お兄様は心配そうな顔になる。
「大丈夫そうか?」
「はい。それよりもお兄様のほうが心配だわ。石を拾ったのが私だとわかれば、シエッタ殿下が家にやってくるかもしれないもの」
「石を確認してきたついでに、俺にも会っておこうってやつだな。どうしたら諦めてくれるんだろうか」
「難しいところね。お兄様が婚約者や恋人を作れば、シエッタ殿下は逆恨みして、お兄様ではなく相手を狙おうとするかも」
「……あの人はそういうタイプだろうな」
お兄様は小さく息を吐いた。
元家族はどんな場合であっても自分が悪いと思うような考えは、ないと言ってもおかしくない。どんな時でも、他の人が悪いと言うに決まっている。
「家の中以外では、一人になるなよ」
「わかってます」
「そういえば、石はもう磨き終わったんだろ?」
「うん。職人の方も思っていた以上に早く作業を終えられたことに驚いていたわ」
そう言って、お兄様に石を見せると目を丸くする。
「まったくの別物になってるな」
「原型がわからないわよね」
シイちゃんを磨いてくれた人には、誰かに原型がどんなものだったか聞かれても、守秘義務があると言って話さないようにしているから安心だ。もし、話そうものなら信用できない人間と判断されて、彼は職を失ってしまう。そんな馬鹿なことはしないでしょう。
「心配してくれてありがとう」
「別に普通のことだろ」
照れくさそうな顔をするお兄様に、私はもう一度お礼を言って微笑んだ。




