18 王家の石 ②
届け出てから十日が過ぎても、学園にも拾得物預かり所にも石を落としたという届け出がなかった。一定の預かり期間も過ぎたため、拾った石は私のものだと認められた。
「シイちゃんを磨いてもらおうと思うんだけど、どこに持っていこうか迷っているの。お兄様ならどこへ持っていく?」
「シイちゃん?」
ノンクード様との婚約破棄後は、お兄様が登下校を一緒にしてくれるようになっていた。教室まで迎えに来てくれたお兄様と一緒に馬車の乗降場に向かって歩きながら、ハンカチにくるんでいた石を見せて答える。
「何か愛着が湧いちゃって。石だからシイちゃんって名前をつけたの」
「ミリル、その話は仲の良い友人以外には言うなよ」
「なんだかわからないけど、今はキララにも話すつもりはないの。石に名前をつけるなんてって馬鹿にされることも嫌だからというのもあるけど、あまり、多くの人に知られないほうがいいような気がするの。どうしてかな」
「もしかしたら、普通の石とは違うのかもしれないな」
お兄様がそう言うと、光沢のない石のはずなのに、きらりと光った気がした。
「……何か光らなかったか?」
「私もそう思った!」
「普通の石じゃないのかもな。誰かに見られないほうがいい」
お兄様もシイちゃんが普通の石ではないと感じたのか、私を急かすと周りを見回した。そして、なぜか足を止めた。
「どうかしたの?」
シイちゃんを制服のポケットに入れてから尋ねたあと、お兄様の視線の先を追ってみる。
ピンク色の髪に青色の瞳を持つ少年が、乗降場の建屋の入り口の柱に背を預けて立っているのがわかった。彼を目にした瞬間、背筋に悪寒が走ったので無意識にシイちゃんが入っているポケットに手を当てていた。
「はじめまして、リディアスさんとミリルさんですね。姉がお世話になっています」
「「ロブ殿下にお会いできて光栄です」」
近づいてきたロブ殿下に、私とお兄様は声を揃えて挨拶をしたあと頭を下げた。幼い頃に会ったきりだけど、面影は残っていたので、彼が私の弟であることはわかった。
「ぼくのことを知っていてくれて光栄ですよ。一応、自己紹介しますね。ぼくはロブ・レドリーです。今日はミリルさん。あなたに話があって来たんです」
「話……ですか」
私はロブ殿下と話したいことなんてない。かといって正直に、その気持ちを口に出すわけにはいかない。一体、何を言うつもりなのかしら。
「ミリルさんには、婚約者がいないんですよね? 僕と婚約してくれませんか?」
えっと、何かありえない言葉が聞こえてきたんだけど?
私を見つめて、にたりと笑ったロブ殿下に、私よりも早くお兄様が反応する。
「申し訳ございませんが、ロブ殿下。そのようなお話は子供同士でするものではございません。正式にあなたのお父上から、私の父に連絡いただけますでしょうか」
「そ、そんなことはわかっていますよ! た、ただ、ミリルさんがどんな人か見てみたくて」
「どんな人かもわからないのに、婚約を申し込もうとしていたんですね。父に伝えておきます。行くぞ、ミリル」
「はい!」
すれ違いざま、私とお兄様を睨んできたロブ殿下を睨み返したい気持ちになった。でも、わたしは辺境伯令嬢だ。そんなことをしたら不敬に当たる。小さく一礼してから、お兄様の背中を追った。
一体、ロブ殿下は何を目的に私を婚約者にしようと考えたのかしら。
お兄様から私を引き離すため? 何を考えているのか、本当にわからない。
とにかく、お父様に相談しなくちゃ。




