17 王家の石 ①
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前半はシエッタ視点になります。
せっかく、ミリルとやらに挨拶してあげようと思ったのに、今日は、強制的に宿屋に戻らされ、医者に診てもらった。でも、結局は原因がわからないと言って腹痛を抑える薬をくれただけだった。
リディアス様と一緒にいられる時間が急な腹痛のせいで駄目になってしまったわ。学園にいられる時間は短いのに何をやっているのよ!
それにしても、ミリルって子、見た目はミーリルに似ていると言われれば似ているかもしれない。髪も瞳の色も同じだった。でも、あの子のことは、昔、ちゃんと調べたと聞いているし、他人の空似なのかもしれないわね。
「ああ、何か今日は調子が悪いわぁ。石に触れようかしら」
「私もそう思っていたんだ。シエッタ。石を触らせてくれないか。直接触ったほうが楽になる気がするんだ」
お母様に同意したお父様は、わたしに手を差し出してきた。だから、石の入った小袋を渡すと、お父様は笑顔で礼を言い、袋から石を取り出した。
その瞬間、驚きの光景を目にした私たちは口々に叫ぶ。
「石が小さくなっているわ!」
「小さくなったんじゃない! 割れたんだ!」
「わ、わたしは何もしていないわ! 欠片は⁉ 割れたんなら、袋の中に欠片がありますよね⁉」
小袋の中を何度見ても、石は入っていない。封がされているのだから、割れたとしても中に入っているはずなのに!
私たちの声を聞いたお姉様たちとロブも集まり、割れてしまった石を囲んで頭を抱えるしかなかった。
******
次の日から、シエッタ殿下は学園に来なくなった。大人しく国に帰ってくれるのかと思いきや学園生活を延期にしただけで、落ち着いたら改めて学園に通うとのことだった。
「延期の理由は体調不良か何かですか?」
談話室でその話を教えてくれたお父様に尋ねると、苦笑して答える。
「表向きは体調不良だが、実際はそうではないと思う。腹痛は宿屋に戻ったら治ったらしいし、医者もどこも悪くないと言っている。それなのに、学園に来られないのはおかしいし、国に戻ろうとしないことも変だ」
「リディアスを婚約者にしようとしているから、国に戻らないというわけではないわよね?」
お母様が不安そうな顔をして言うと、お父様は否定する。
「それはない。今のところ、うちにも王家にもそんな連絡は来てないからな」
「早く諦めてくれねぇかな。絶対にシエッタ殿下を好きになることなんてないし、俺にこだわるのは時間の無駄だと思う」
「あなたに婚約者ができない限り、ああいうタイプは諦めないと思うわ」
「婚約者を作ればいいんですか」
「そうね。そうすれば、婚約の申し込みはなくなるでしょう。あなたもそうだけど、ミリルも婚約者がいないから、変な人に婚約の申し込みをされない内に、相手を探さないといけないわね」
「が、頑張って婚約者になってくれそうな人を探すことにします!」
両手に拳を作って言うと、お母様は困ったような顔をして首を横に振った。
「違うのよ、ミリル。……まあ、いいわ。今度、女性だけでゆっくり話をしましょう」
「……はい」
何かおかしなことを言ってしまったのかしら。
お父様とお母様は苦笑しているし、お兄様は恨めしそうな顔で私を見ている。
まさか、私とお兄様を婚約者にする、なんて考えていないわよね?
嫌じゃないんだけど、嫌なの。この複雑な気持ちを、ちゃんとお兄様たちに話をして理解してもらえるようにしなくちゃ。
私が俯いたからか、お父様は話題を変える。
「ミリルに伝えておきたいことがある。ビサイズ公爵家から慰謝料が支払われた。成人するまでは、そのお金は私が預かっておくことにしておいていいか?」
「もちろんです。お父様の好きなように使っていただいて結構ですよ」
「お前の金だから使ったりしないよ。それから、ノンクード様の件は抗議しておいたから、大人しくなるはずだ。迷惑をかけたとして、追加でビサイズ公爵はお金を払ってくれることになった」
「ありがとうございます」
慰謝料も含めてもらったお金は、今までお世話になった分のお金として、お父様たちに渡したいです。
と言っても、きっと受け取ってくれないだろうし、本当の家族なら親に育ててもらったお金を返すなんてことは、他人からもらったお金ではしないわよね。それに、返すにしても一度に返すものでもない気もする。
いつか、薬師になってお金を稼げるようになったら、良くしてくれた使用人や騎士、国境警備隊の人たちにも何かプレゼントしたいな。
「リディアス、いいか。私たちは手伝わないぞ。自分で話をしなさい」
「わかっています」
「頑張ってね、応援しているわ」
私が呑気に妄想している間に、お父様たちはそんな会話を交わしていた。




