16 運命の出会い
次の日、お兄様と一緒に登校した。学園に到着して馬車から降りると、シエッタ殿下が付き人の女性と共に待ち構えていた。
シエッタ殿下を見るのは久しぶりなのに、彼女だとすぐにわかったのは、私と目が合った時の蔑んだ表情が、昔と変わらなかったからだ。
「待ち伏せかよ」
お兄様とは出かける前に別々に行こうかと話し合った結果、どうせ接触してくるのであれば、こちらから行っても良いという考えで決着していた。だから、別に驚くことでもないので、お兄様に微笑みかける。
「足を運ぶ必要がなくなって良かったです」
「そうか」
お兄様は表情を和らげて私を見つめる。周りにいた女子生徒がお兄様を見て「きゃあ」と悲鳴に近い声を上げたけれど、お兄様は一向に気にする様子はない。
せっかくモテるのだから、いつもこうやって優しい表情でいれば良いのに。
そう思っていると、シエッタ殿下が満面の笑みを浮かべて走り寄ってきてお兄様に挨拶する。
「おはようございます、リディアス様」
「おはようございます」
お兄様は仏頂面になり素っ気なく挨拶を返した。そんなお兄様を気にする様子もなく、シエッタ殿下は私に目を向ける。
「おはようございます。ミリルさんですわね?」
「おはようございます。初めてお目にかかります。ミリル・ジャルヌと申します」
「……そう。あなたが噂のミリルさん」
シエッタ殿下は私をじっくり観察してから続ける。
「お会いできて嬉しいわ」
「光栄にございます」
本当はあなたの顔なんて、二度と見たくなかったわ。
少しだけいら立ちを覚えた時、突然、シエッタ殿下の表情が歪み、お腹を押さえてしゃがみ込んだ。
「シエッタ様! どうなさいました⁉」
「と……突然、腹痛が……っ」
付き人が叫ぶと、シエッタ殿下は苦しそうな声で答えた。かなり痛いらしく、シエッタ殿下の額から汗が噴き出したのがわかった。
「医務室に行かれたほうが良いのでは?」
お兄様が付き人の女性に声をかけた時、ノンクード様がどこからか現れた。
「大丈夫ですか。シエッタ殿下! 僕が医務室まで運びましょう」
そう言って、ノンクード様はシエッタ殿下の返事を待たずに、彼女を横抱きして歩き始めた。
礼儀としてどうかと思うけど、緊急事態だから仕方がないわよね。
「一体、なんだったのかしら」
「突然、腹痛が起きたみたいだったな」
お兄様と私は顔を見合わせ、歩き去っていくノンクード様の背中に目を向けた。ちょうどその時、付き人の女性が地面に落ちている小さな袋を拾っているところだった。それが落ちた瞬間を見ていないから絶対とは言い切れないけれど、シエッタ殿下が落としたものだと思われる。
「俺たちも校舎に入るか」
「うん」
馬車の乗降場は校舎とは違う建屋の中にあるので、並んで歩きだした。お兄様と歩き出してすぐに、私は急に何かが気になって足を止めた。そして、無意識に道の端を見ると、白い石が転がっていることに気がついた。
校舎に続く道は整備された石畳の道で砂利道ではない。いつも清掃員の方が綺麗にしてくれているし、こんな石が転がっているのを見るのは初めてだった。石に駆け寄って拾い上げると、お兄様も足を止めて、私の所に歩いてくる。
「どうした?」
「何か、この石が気になって仕方がないの」
私の手のひらよりも少しだけ小さな白い石。半分にでも割れたのか、丸みのある部分とそうでない部分がはっきりしていて、いびつな断面になっていた。
「子供じゃないんだから、そんなもの拾うなよ」
「でも、どうしても気になるの。持って帰ってもいいかな」
「持って帰ってどうするつもりだよ」
「わからないけど、綺麗に磨いてもらうわ」
お兄様は呆れた顔をしたけれど、駄目だとも言わなかったので、私は石を制服の上着のポケットの中に入れた。
「早く行くぞ」
「うん」
この石が誰かのもので大事なものなら、きっと届け出るわよね。
「拾得物として届けておいたほうがいいかな?」
「別にいいだろ。そんなことしたら、道端に転がっている石を子供が持って帰ったら、全て報告しないといけなくなるぞ」
「でも、学園のものかも」
そう思った私は念のため、石を拾ったことを学園側に連絡した。その日中に学園長に連絡がいき、私が持ち帰っても良いという許可が下りたので、私は石を家に持ち帰った。その後、学園側から警察に連絡を入れてくれたようで、警察から持ち主が現れなければ、私のものにしても良いと連絡があった。
私たちの国では拾得物に持ち主が現れない場合、お金や明らかにお金になりそうな宝石などでなければ、10日間経てば自分のものにしても良いことになっている。
その期間は大事に保管して、持ち主が現れなければ石を綺麗に磨いてもらうことにした。




