15 新学期
薬草の調合は相変わらず見た目が悪いことが続いた。ただ、効果は抜群なので、改善する必要もないかと諦めかけていた頃、問題の新学期を迎えることになった。
さすがに新学期の初日は気分的に休みづらかったこともあり、学園に登校することにした。
教室に入るとすぐに、ノンクード様が私の所にやって来た。
「父上にはミリルには不必要に近づくなと言われているんだ。だから、僕と話したなんて言うなよ!」
「嘘をつく必要はありませんので、連絡させていただきます」
「やめてくれ! それよりもどうして、婚約破棄なんてするんだ! 君のせいでシエッタ殿下に役立たずと言われたんだぞ!」
ノンクード様が大声で叫ぶものだから、クラス内の視線は私たちに集まった。
本当に迷惑だわ。
「私のせいにされても困ります」
「君が大人しく僕の言うことを聞いて、シエッタ殿下とリディアスさんの仲を取り持てば良かっただけなのに!」
ノンクード様は手を出してはこなかったが、私に顔を近づけて続ける。
「まあいい。今頃、シエッタ殿下はリディアスさんと一緒にいる。今度こそ、リディアスさんは素直になることだろう! そうなれば僕の勝ちだ!」
高らかに宣言したノンクード様は満足したのか、私から離れると自分の席に戻っていった。
何だったの?
ただ、愚痴りたかっただけかしら? 何が言いたいのか、さっぱりわからない。
不思議に思いながら、クラスのみんなの反応を窺ってみると、ノンクード様を見てあきれ返った顔をしていた。
その後のノンクード様は大人しくしていてくれたので、無事に家に帰ることができた。しばらくすると、お兄様が不機嫌そうな顔をして帰って来た。
「お兄様、おかえりなさいませ。どうでしたか?」
「ただいま。どうだったかと聞かれると、まあ……、最悪だった」
尋ねた私にうんざりした顔で答えたお兄様は、学園でどんなことがあったのかを教えてくれた。
シエッタ殿下の希望が通り、彼女はお兄様の隣の席になったらしい。
さすがに授業中に何かしてくることはなかったけど、休み時間になると猛アピールだったそうだ。
他のクラスメイトは王家の人に会えるなんてありえないことだし、ちやほやするだけでなく、素っ気ないお兄様の態度に苦言を呈する人もいたのだという。
「辛くないですか?」
「別に友達でも何でもない奴に、ただの悪口を言われても気にしない。というか、逆に自分が決めたやり方でやろうって思う。悪い所は直すようにするけどな」
「お兄様らしいわね」
「褒めてるのか?」
「もちろん褒めてます」
「そうか」
お兄様は満足したように優しく微笑んだ。
お兄様と距離を置くようにしたら、シロウズが教えてくれた通り、目に見えるくらいに落ち込んでしまったので、今まで通りに戻した。
考えてみたら、私もお兄様にそんなことをされたらショックだもの。
「でも、お兄様、これから十日間、その調子で大丈夫そうですか?」
「俺は大丈夫だ。それよりも心配なのは、シエッタ殿下がミリルに近づこうとするんじゃないかってことだ」
「お兄様がシスコンだということは、みんなに知られていますものね」
「わ……、悪い」
お兄様が焦った顔になったので、微笑んで首を横に振る。
「大事にしてもらえているのは嬉しいので、気にしないでください。それよりも、私がミーリルだということを知られないようにしなければなりません」
私の髪色と瞳は珍しいけど、絶対にないわけではないし、同じ色の髪と瞳を持った、元両親役の人もいる。だから、出生についてどうこうは言えないはずだわ。
薬草のことを考えると、私は王家に幸運をもたらす存在だった可能性が高い。だけど、家族は私をいらないものと判断した。
お父様が森に私を置いていった時に、私の力が幸運をもたらす力ではなく、災厄をもたらす力に変わっていれば良いのに……。
そうすれば、シエッタ殿下がお兄様に近づいても、私が側にいればお兄様を守ってあげられるかもしれない。私の力は王家にしか関係ないのだから、お兄様には迷惑をかけなくて済むから、災厄の存在になってもかまわない。
「ミリル、一人で何とかしようとするなよ」
お兄様は私の頭を優しく撫でたあと、眉尻を下げる。
「というか、変な奴に目をつけられてごめん」
「お兄様が謝ることではありません」
自慢のお兄様が女性に好かれるのは、私にとっては当たり前のことだもの。
きっと、シエッタ殿下はお兄様を振り向かせるために、私を潰しにかかるでしょう。
私ものんびりしていられない。薬草学の勉強をもっと頑張って、この国に必要な人物にならなくちゃ!
そうすれば何があっても母国に戻れなんて言われないわよね?




