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14  隠されていた能力

 私の薬草学の先生になってくれたのは、薬師の資格を持っている女性だった。白髪の綺麗な髪をシニヨンにして、いつもニコニコしている穏やかな性格の可愛らしいおばあさんで、背筋はピンと伸びているけれど、とても小柄のため、私よりも背が小さくて、まるで子供みたいな体の大きさだ。


 学園の長期休みが終わるまでに、私はコニファー先生から薬草学を学び、初歩的なものではあるが、薬草を配合して薬を作ることまでできるようになった。

 薬を売ることは薬師の資格がないと無理だが、薬師の許可があれば無償で譲ることは可能になっている。

 私が特に学ぶことにしたのは身を守るためのものとはいえ、塗ったところに触れたら痛いなど、禁忌に近いものばかりだった。

 元々は、悪人から大事な物を守るために考えられたものだそうだが、悪戯や犯罪に使われるようになって、一般ではレシピが販売されなくなった。そのため、年配の薬師しか調合の仕方がわからない。

 

「どうして上手くいかないのかしらねぇ」


 悪臭が漂う可能性があるため、中庭にある小屋の近くでコニファー先生の作った薬草鍋と私が作った薬草鍋の中身を見比べながら、先生が首を傾げた。

 先生と同じ薬草を同じ分量入れて、同じ時間に煮込んだのだから、同じような見た目のものができるはずなのに、先生の鍋は緑色。私の鍋はなぜか紫と黒が混じった色になっているだけでなく、火にかけていないのに、なぜかぐつぐつと煮立っているように見える。

 鍋が悪いのかと思って、先生の使っている鍋と入れ替えても同じ結果になるので、私が作るとおかしな薬が出来上がってしまうのだということがわかった。


「同じ薬草を使っているから、毒にはならないと思うんだけどねぇ」

「見た目だけだと、腹痛を治すための薬なのに、飲んだらもっと悪くなりそうですね」


 コップに移してみても、液体はまだぐつぐつ、いや、ぼこぼこと動いている。


「まるで薬草が生きているみたいねぇ」


 材料の配合なども間違えておらず、毒にはならないとのことなので一口だけ飲んでみると、私の大好きなオレンジジュースの味がした。


「せ、先生、美味しいです!」

「嘘でしょう? 苦いんじゃないの?」

「本当なんです、先生! 飲んでみてください!」


 コップを手渡すと、先生は恐る恐るといった感じで、私の作った液体の薬を飲んだ。最初は苦々しい顔をしていた先生だったけれど、ぱちりと目を見開く。


「あらあら、本当に美味しいわ。でも、オレンジジュースの味というよりかは、高級な紅茶といった感じねぇ」

「本当ですか? 私にはそんな味には感じられなかったのですけど」


 違うコップに入れ直して、また一口だけ飲んでみたけど、やっぱりオレンジジュースの味がする。

 結果、一口だけといって騎士や兵士の人たちに飲んでもらってみた。最初はみんな見た目で気持ち悪がっていたけれど、飲んでみたら、それぞれが違う味だと言いつつも好評だった。そして、調べてみたところ、共通点は自分が一番好きな飲み物の味になっていた。


「ミリルは良い意味で恐ろしい力を持っているのかもしれないわねぇ」

「私の力なのかはわかりませんが、これって人の役に立てるでしょうか」

「薬が苦いといって飲みたがらない子供も多いから喜ばれるに違いないわ。だけど、あなたは薬師ではないから、販売は無理ねぇ」

「薬が飲みやすくなるのは良いことだと思うんで、資格を取ったほうが良いでしょうか」

「あなたの本当の目的は自衛ですからねぇ。見た目は酷いけれど、飲みやすい薬が作れると知られたら、あなたは他の薬師から恨まれる可能性があるわよぉ」

「そうか。そうですよね。自分の作った薬が売れなくなるってことですもんね」


 先生が頷いたのを確認して、私は宣言する。


「わかりました。皆には今回のことは口止めして、外に漏らさないようにしてもらいます。そして、違うものにトライして、今度こそ成功させようと思います!」


 こうして私は、他の初心者向けの調合を先生と一緒に挑戦することになったのだった。


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