59 王女の不思議な力 ➂
机の上に紙を置くと、シイちゃんは『シイハ、ソンナバカナコトシナイ!』と、いつもより速いスピードで転がった。そんなシイちゃんを見て、お父様が謝る。
「すまなかった。陛下も私も本気で思っているわけじゃないんだ。ただ、シイがフラル王国にいないから馬鹿なことが起きるというのは間違っていないんじゃないか?」
『ソレハ、ソウカモシレナイケド、シイハ、ダイヨンオウジョガ、ウマレタトキニウゴクンダヨ。マア、ウゴコウトオモエバ、イツデモウゴケルケドサ』
「そういえばそうだったわね」
お母様は納得し、私を見つめる。
「もしかしたら、ミリルの中にある王家の血というものに反応しているのかもしれないわね」
「第四王女じゃなくなっても、第四王女だったことに変わりはないからですかね」
結局、私は幸運の第四王女だったということで間違いないんだろう。そんな私がいなくなったから、今の王家も不幸に見舞われているのかもしれない。
もし、そうだったとしたら、私はフラル王国に戻らないといけないんだろうか。
『シイハ、ミリルガコウウンノオウジョダカラ、ワルイウミヲダセタンダトオモッテルヨ』
私の考えを読んだかのようなシイちゃんの言葉に、私は優しさに感謝しながら尋ねる。
「私はここにいてもいいということ?」
『ウン。モトモトノカゾクモ、ミリルヲステタカラフコウニナッタンダ。ミリルガチカクニイテモ、ワルイコトヲシタナラ、オナジヨウニフコウニナッテタトオモウ』
「そうなら嬉しい。というか、シイちゃんがそう言うなら、きっとそうよね!」
ポジティブ思考の私が元気な声で言うと、お父様とお母様が安堵の笑みを浮かべた。
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五日後、リディアスから手紙が届いた。今は帰途についている途中で、もうすぐ家に帰れそうだと書かれていた。だから、日が過ぎるのを楽しみにしていのだけど、学園に行くのは気が進まなかった。
というのも、パトリック様がまだ学園にいるからだ。相変わらず彼は私になんとかして近づこうとしている。それは無視しておけばいいんだけど、リディアスにちゃんと伝えていなかったような気がする。
いや、伝えたんだろうか。あまりにもバタバタしすぎていて、はっきりとした記憶がない。
話したかどうかを確認するには、なんと言って切り出そうか。シイちゃんか、お父様たちから言ってもらおうかと考えていた日の夕方、乗降場に着き、待ってくれていた御者に手を振って目の前まで動かしてもらった時、背後からパトリック様に声をかけられた。
「ミリルに相談したいことがあるんだ。もし、時間があるなら今からお茶をしに行かないか」
「申し訳ございませんが」
お断りの台詞を言い終える前に、御者ではなく内部から馬車の扉が開いた。そして、驚いている私たちの注目を浴びながら、馬車から降りてきた人物はにこりと微笑む。
「申し訳ないが、ミリルはこれから俺と一緒に家に帰るという用事があるので諦めてください」
相手が誰だかわからないからか、笑顔でリディアスはそう言うと、私の腕を引いて馬車の中に乗り込んだのだった。