57 王女の不思議な力 ①
リディアスはまだ遠い戦地だけれど、ハピパル王国の王城に行っていたお父様は、かなり早く家に帰ってくることができた。急いでエントランスホールに向かうと、お父様とお母様が再会を喜び合っているところだったので、足を止めてこっそり眺めることにした。
シイちゃんが『イカナイノ?』と言わんばかりに飛び跳ねるから小声で話す。
「お父様とお母様は私たちよりも久しぶりに会ったんだもの。二人の時間を邪魔するわけにはいかないでしょう?」
シイちゃんもわかってくれたのか、私の手の上でピョンピョン飛び跳ねた。その時、お父様にばれてしまい「ミリル!」と声をかけられた。
静かにしていたつもりだったけど、お父様は気配を感じ取ったみたい。
「おかえりなさい、お父様!」
「ただいま、ミリル、シイ」
階段を駆け下りていって、お父様の前に立つ。子供の頃なら抱きついていたけれど、一応、私も年頃の娘だ。落ち着いた再会の抱擁を交わすと、お父様は眉尻を下げる。
「昔のミリルなら飛びついてきてくれたんだがなぁ」
「あら。ミリルの年でそんなことをしたら、はしたないと言われてしまうから駄目よ」
「家の中なんだからいいだろう」
残念そうにするお父様を見てお母様は笑うと、私に優しい目を向ける。
「争いなんてないほうがいいけれど、もし次に遠征に行くことがあって、リディアスが許すのであれば、抱きついてほしいとお願いしたらどう?」
「そうだな」
「少し恥ずかしいけど頑張ります」
苦笑して答えると、執事が私たちを促す。
「さあ、こんな所でお話せずに、お茶を淹れますから談話室でゆっくりしてくださいませ」
「ありがとう」
着替えてくると言ったお父様と一度別れて、お母様とシイちゃんと一緒に先に談話室に向かう。
お母様の表情がいつもよりも明るくて、私の気持ちも明るくなる。これで、リディアスが帰ってきたら、お母様ももっと元気になるわよね!
「エレスティーナ殿下のことについても話をしてきたと言っていたわ。一緒に話を聞きましょうね」
「わかりました」
そういえば、エレスティーナ殿下は今もリディアスと一緒にいるのかしら。それとも、もう、リディアスはこちらに向かってる?
そんな不安な気持ちがよぎったけれど、リディアスなら大丈夫だと、私は気持ちを切り替えたのだった。