54 フラル王国の第二王子への処罰 ①
シイちゃんは昔と同じように自分のダミーを作り上げ、レイティン殿下に本物が渡ったように見せかけていた。レイティン殿下は、シイちゃんを返すことで私に恩を売って言うことを聞かせようと思っていたみたいだけど、真相を知っている私には無駄な話だった。
シイちゃんが盗まれて焦っているふりをしつつも、出発する準備を進めた、次の日の朝、私の所にレイティン殿下がやって来た。
婚約者がいるため、異性と二人きりになるわけにはいかない。レイティン殿下には部屋に入ってもらいはするが、部屋の扉を開け放ったまま話すことになった。
「おはようございます、レイティン殿下。お会いできて光栄です」
不敬にならないように挨拶をして、落ち込んだふりをしていると、レイティン殿下は嬉しさを隠しきれないといった様子で話しかけてくる。
「どうしたんだ。元気がないじゃないか」
朝からあなたの顔を見て憂鬱なんです。
……とは言えない。
「色々とありまして……」
どうとでも取れる言葉を選ぶと、レイティン殿下は鼻で笑う。
「大事なものでも失くしたのか?」
「そうかもしれません」
第二王子殿下に対する敬意の心を失くしてしまったかもしれない。
私の考えなどわかるはずもかなく、レイティン殿下は私に問いかける。
「大事な石を紛失したんだろう?」
「どうしてご存知なのですか?」
一度、奪われたことは間違いないので否定するのはやめておいた。
シイちゃんが動いたりすることを、レイティン殿下は知らない。だから、手元にあるシイちゃんに似た形の石を私に見せつけて話す。
「大事な石を盗まれるなんて信じられない。僕が見つけて取り返してやったんだ。感謝しろよ」
「……ありがとうございます。あの、石を見せていただけますか?」
「また盗まれるかもしれないから駄目だ。どうしても返してほしいなら」
「承知いたしました」
「……え?」
レイティン殿下が表情は笑顔のまま聞き返してきたので、私も笑顔でもう一度同じ言葉を口にする。
「承知いたしました」
「か、返してほしくないのか?」
「はい。それはレイティン殿下のための石ですから」
「どういうことだよ」
「そのままの意味です」
困惑しているレイティン殿下に答えたあと、早速お帰り願うことにする。
「本日はわざわざ足を運んでいただき、誠にありがとうございました。その石は大事にお持ち帰りくださいませ」
「ほ、本当にいいんだな!?」
「もちろんです」
頷くと、レイティン殿下は怒りで顔を真っ赤にして、私を指差す。
「このことは父上に報告させてもらう。謝るだけでは済まされないからな!」
「私からも事情を説明するお手紙を送らせていただきます」
「本当にいいのか!?」
レイティン殿下はぶつくさと文句を言っていたが、付き人たちに引きずられるようにして帰っていった。彼が帰ってすぐ、護衛の騎士が呼んで来てくれたのか、リディアスが駆けつけてくれた。
事情を説明すると、安堵した顔になって私の頬に触れる。
「今回はシイを奪われる以外、何もされなくて良かったけど、これからはもっと警戒しろよ」
「わかってます。シイちゃんを奪われることだって絶対に駄目なことだったんだから、本当に気をつけなくちゃいけないわ」
いくらシイちゃんが自分で私の所に戻ってこれるとはいえ、無防備過ぎたことを反省した。
その後、私はリディアスたちに帰りを家で待つと伝えて、帰宅の途についたのだった。




