49 ロードブル王国の王女の告白 ②(リディアス視点)
顔面攻撃については、シイが勝手に動いたとは言えないので俺が謝るしかない。シイを拾い上げてから、彼女に近づいて謝る。
「エレスティーナ様、申し訳ございません」
「リディアス、あなたわざとじゃないわよね?」
「もちろんです」
「そうだとしても謝るだけでは」
エレスティーナ様が何か言いかけた時、シイが動いたせいで俺の手も勝手に動いた。シイは彼女の額に当たったかと思うと、すぐに大人しくなった。
こんなことをしたら、不敬だと言われて面倒なことになる!
そう思って焦った俺だったが、エレスティーナ様は呆然としたような顔で俺を見つめているだけだった。
「あ、あの、エレスティーナ様? どうかしましたか?」
「……私ったら、何をしていたのかしら」
「え?」
俺の聞き返す声が聞こえなかったかのように、エレスティーナ様は何度か目を瞬かせたあと、近くで様子を見守っていた侍女たちに声をかける。
「お腹が減ったわ! 食べ物を用意して頂戴!」
「は、はい!」
俺も困惑したが、侍女たちは余計にだった。返事はしたものの、みんな、不思議そうな顔をしている。
「お腹が減ったって……、さっき食べたばかりじゃない?」
侍女が呟くように、近くのメイドに話しかける声が聞こえた。エレスティーナ様には聞こえなかったのか、立ち上がって俺を見上げて宣言する。
「リディアス、あなたはミリルさんが好きなようだけど、私は諦めないわ。絶対にあなたに私を好きになってもらうから!」
「申し訳ございません。それは無理です」
「黙って! これから挽回するから見ていなさい!」
何を挽回するんだよ。
ツッコミを入れたくなったが、さっきのシイの顔面攻撃のことで何か言われても困る。とにかく、彼女の俺への気持ちだけはお断りしておく。
「エレスティーナ様、お気持ちはありがたいのですが」
「黙ってと言ったでしょう!」
今はこれ以上話すことはないと言わんばかりに、エレスティーナ様は足早に去っていく。ニヤニヤしながら俺たちを見ていた奴らも、笑いながら歩き始めた。
これでまた、変な噂が立つのかよ。
ため息を吐いたあと、人のいない場所に移動し、ポーチを開けてシイに話しかける。
「もしかして、エレスティーナ様の記憶を消してくれたのか?」
シイはそうだと言わんばかりにキラリと光った。
「そんなことして大丈夫なのか? 他国の王女だぞ?」
シイが何か言いたげにピョンピョン飛び跳ねたが、何を言おうとしているのか、さっぱりわからない。
意思疎通するための文字が書かれた紙は、ポーチの中に一緒に入っているので、今すぐ聞き出すことも可能だ。だが、いつどこで人に見られるかはわからない。
とにかく今は、ミリルと合流するか。公衆の面前で告白されたことも先に伝えておいたほうがいいだろう。
今の俺はミリルがヤキモチを焼いてくれるかどうかではなく、誤解されたくないという気持ちが勝っていた。