48 ロードブル王国の王女の告白 ① (リディアス視点)
「リディアス!」
ミリルとシモンズと一緒に父さんの所に向かっている途中の宿営所の前で、エレスティーナ様に呼び止められた。
「「おはようございます、エレスティーナ様」」
俺とミリルが声を揃えて挨拶をすると、彼女は眉根を寄せた。
周りからエレスティーナ様が俺に気があるんじゃないかと言われたことはある。だが、俺にしてみれば、女性としてまったく興味のない相手だし、他国の王女が俺に興味があるはずはないと聞き流していた。ミリルがここに来ることになったきっかけを作ってくれたのはありがたいが、ミリルに誤解をさせられるのは御免だ。
「おはよう。リディアス、あなたと二人で話がしたいんだけど、今、いいかしら」
エレスティーナ様はそう言って、ミリルに目を向けた。いいかと聞いてきているが、確実に断れないパターンだ。ミリルもそれを感じ取ったようで、笑顔で話しかけてくる。
「リディアス、私はお父様の所に行ってくるわ」
「でも」
「シモンズがいるから大丈夫よ。あなたのほうが心配だから、これ、お守りよ」
ミリルは、シイが入ったポーチを俺に握らせて話を続ける。
「絶対にあなたを守ってくれるし、あなたが馬鹿なことをしようとしたら、痛い目に遭うことになるわよ」
「……そうだな。ありがとう」
俺を信じてくれているのか、それともシイに絶対的な信頼を置いているのか。まったく不安そうな様子はなく、ミリルは綺麗なピンク色の瞳を俺に向けている。
やっぱり、俺の婚約者兼彼女は可愛い。
あやうく人前で抱きしめてしまいそうになったが、シモンズに睨まれただけでなく、ポーチの中にいるシイからも圧を感じて冷静になれた。
「ミリル様、行きましょう」
「そうね。では、エレスティーナ様、私はここで失礼いたします。リディアス、またあとでね」
ミリルとシモンズはエレスティーナ様に一礼すると、宿営所の中に入っていった。
「エレスティーナ様、話とはどのようなことでしょうか」
「リディアス! あなたに婚約者がいることは知っているわ。だけど、私はあなたが好き! お願い、リディアス。私を好きになって!」
宿営所の前とあって、人の通りは多い。エレスティーナ様は周りにいる人間に聞こえるように大きな声で叫び、俺に抱きつこうとした。
俺は反射的に横に避けて、エレスティーナ様から逃れることはできたが、彼女は勢い余って、地面に倒れ込んだ。
「ひ、酷いわ、リディアス!」
「申し訳ございません」
助け起こすために、右手に持っていたポーチを左手に移そうとした時、シイが動いた。俺が取り落としたと見せかけられるタイミングで、シイはポーチごとエレスティーナ様の顔面に体当りし、ぼとりと地面に落ちた。