47 シイの怒り ③
怒りからかシイちゃんが熱くなってしまったので、水の入ったボウルに入れてクールダウンさせている間に、リディアスと話をする。
「レイティン殿下が暴走していることをフラル王国の国王陛下は知っているのかしら」
「ミリルの周りをウロウロしていることや、エレスティーナ殿下と連絡を取っていることは知っているだろうけど、ミリルを手に入れるために画策してるのは知らないかもしれないな」
「そうよね。だって、シイちゃんは陛下のことを良い人だと判断しているんだもの。多くの人を巻き込んで私を手に入れようとしていると知ったら、さすがに彼を除籍するわよね」
シイちゃんにだって間違うことはあるかもしれないけど、そんな時は神様がフォローに入るはず。シイちゃんの怒りを鎮めないということは、レイティン殿下が悪いということで間違いはないのだと思う。
「それくらいのことをしているのは確かだし、それくらいしないと駄目だろう」
「ただ、これはレイティン殿下だけの責任ではない気もするのよ」
「彼は成人していないから、親の責任でもあるよな」
「私もそう思う。だから、除籍しても面倒は見るんじゃないかと思うの。それについては、シイちゃんはどう思っているのか気になるわ」
透明なボウルの中でチャプチャプ遊んでいたシイちゃんを見つめると、私の視線に気づき、頷くように上下に飛んだ。
「それは許すってこと?」
シイちゃんはまた上下に飛んで答えた。
「レイティン殿下は自分で白状したからいいとして、エレスティーナ様が関与している証拠は集まるかしら」
「難しいと思う。彼女たちには魔法があるから、忘却魔法を使われたら終わりだ」
「忘却魔法かぁ。それは厄介ね」
状態異常の魔法を防げる道具があるらしいけど、それはロードブル王国の人間しか買えない。しかも、かなりお値段が高く、持っているのは辺境伯家以上らしい。
エレスティーナ様を捕まえることができなくても、魔法に対抗できる何かがあればいいのに……。
そう思った時、私の中で閃いたことがあった。
「私が作る薬は普通じゃない。もし、私が魔法の状態異常の効果を解除できる薬を作れたら、エレスティーナ様を捕まえられるかしら」
「可能性は無きにしもあらずだが、そんな薬が作れるのか?」
「シイちゃんはどう思う?」
尋ねると、シイちゃんは近くにおいていたタオルの上に飛び、自分で転がって水気を取ると、私に紙を広げるように促す。
文字が書かれた紙をベッドの上に置くと、シイちゃんは自分で飛んできて転がる。
『ミリルノチカラハ、カミサマノギフトダカラ、カミサマガユルセバツクレルヨ。キイテミヨウカ?』
「お、お忙しくなければぜひ!」
『ワカッタ。チョット、シイハキエルネ』
その言葉を残し、シイちゃんの姿は消えてしまった。
「改めて思うけど、シイちゃんって本当にすごいわよね」
「普通じゃ考えられないことをしてくるよな」
私とリディアスは顔を見合わせて言ったあと、自分たちもできることをしようと、とりあえず、お父様の所に行くことにした。