1 捨てられた第四王女 ①
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視点変更多めのお話になりますので、ご注意ください。
フラル王国の第四王女だった私、ミーリル・レドリーがハピパル王国の南の辺境にある、ジャルヌ辺境伯邸に初めて足を踏み入れたのは、私が七歳の時だ。
フラル王国の王家では第四王女が生まれた時、その子供は王家にとって災厄か幸運のどちらかをもたらすと言い伝えられていた。
末っ子の王子が生まれるまでは、私がどちらになるのかわからなかったこともあり、両親に可愛がられていたと記憶している。でも、待望の男の子が生まれただけでなく、外見の良い姉たちに比べて劣った容姿や、病弱だったこともあり、私は両親にとって特に秀でたものもない、金のかかるだけの子供になってしまった。
ダークブルーのウェーブのかかった長い髪に世界的にも珍しい薄いピンク色の瞳。体調の良い日などはほとんどなく、いつも青い顔をしていた私は、部屋に閉じこもっていることが多く、姉や弟たちから特に忌み嫌われていた。
「ミーリルねえさまのことを、みんな、めいわくなひとっていっていますよ。ぼくはこのくにのおうになるんです。そんなあねはいりません。からだがよわいのならはやくしんでください」
ある日、弟のロブはベッドで横になっている私にそう言い放ち、その日から私を避けるようになった。廊下で鉢合わせることがあろうものなら、嫌悪感を丸出しにして私を睨みつけてきた。
「また、青白い顔をしているわ。あの子のせいで贅沢させてもらえないのよ。幸運どころか災厄ね」
「妹は二人もいらないわ。一人で十分。なんでお母様はこんなのを生んだのかしら。どうせ生むなら、幸運をもたらす妹にしてほしかったわ」
「ミーリルがいなければ、おもちゃとかぜーんぶ、わたしが独り占めできたのに! ほんと存在自体が災厄だわ」
長女、次女、三女はわざわざ私の部屋にやって来て、私に聞こえるように大きな声で話していた。お姉様の言う通り、私の医療代には、かなりのお金がかかっていた。
でも、私だって好きでこんな体に生まれたわけじゃない。
美を求めるお母様には、私に使う医療代はただの無駄遣いでしかなかった。熱でうなされている私の横で、両親がこんな話をしていたことも覚えている。
「これからこの子にどれだけお金がかかるのかしら。考えるだけで気が重いわ。こんなことなら生まなければ良かった。王家が節約しないといけないなんて信じられないわ」
「そうだな。ミーリルに金をかけるくらいなら、他の子供たちにかけよう。災厄をもたらす娘などいらん」
当時七歳だった私は、その言葉を聞いて本当にショックだった。
だから、数日後にお父様から狩りに行こうと誘われた時は、私のことを嫌っているわけではないのだと思って嬉しかった。
でも、実際はそうじゃなかった。
「ミーリル、君は良い子だろう? ここで待っていなさい」
お父様はそう言って、大きな木の下に私とたくさんの食べ物を置いて、兵士たちと一緒に去っていった。兵士たちが憐れんだ目をしていた理由が今となれば理解できる。
置き去りにすることを知っていた兵士たちは良くないことだと思いつつも、王命には逆らえなかった。だけど命令とはいえ、幼い子供を残して立ち去ることは胸が痛かったようだ。
私は昼過ぎから、暗くなるまで待ち続けた。
遅いなという思いから、どうして、戻ってきてくれないのかという不安な気持ちに変わっていった。
夜になると、動物の声があちらこちらから聞こえ始めた。そして、食べ物の匂いに気がついたらしい狼たちから逃れるために、その場から動いた。
休憩は挟みながら、ひたすら歩いたけれど森から抜け出すことはできなかった。森の中は真っ暗で疲れているのに、怖くて一睡もできない。獣の咆哮に怯え、草木の揺れる音に何度も体を震わせた。
「お父さま……、お母さま……」
捨てられたのだとわかっていても、私の頭に思い浮かぶのは二人しかいなかった。
もしかしたら、こんなことはやっぱり良くないことだと思って、迎えに来てくれていないかしら。
そんな甘い考えを木々の隙間から見える満天の星空に、小さな声で助けを求めた。
星が見守ってくれたのか、私の運が良かっただけなのか、森には狼がいたけれど出くわすこともなく、空が明るくなってきた頃、限界を迎えた私は川の近くで眠った。
そして、昼前には隣国であるハピパル王国との境目にたどり着いた。森の中にある境目には、国境をはっきりするための鉄柵があった。
この時、フラル王国の国境警備隊が私に気づかなかったことは、神様の思し召しなのかもしれない。
鉄柵の向こうにいる、ハピパル王国側の男性が話しかけてくる。
「どうしてこんなところに子供がいるんだ? 親はどこ行った?」
「良い服を着ているけど、えらく薄汚れているな。親とはぐれてだいぶ経ってるのか?」
「た、助けてください」
この時の私は、今助けを求めなければ助からないと思い、見知らぬ男性たちに勇気を振り絞って言った。
「可哀想に、ボロボロじゃないか」
白色のワンピースドレスは、枝に引っ掛けたりしたせいで、色んなところが破れていたし、手や足は草で切った切り傷から血が流れていた。綺麗に結われていた髪もほどけ、リボンは知らない間にどこかにいってしまっている。
私を見つけてくれた彼は、国境警備隊の一人で、すぐに上官に連絡を取ってくれた。
そうして、知り合ったのがハピパル王国の南の辺境伯である、カーク・ジャルヌ様だった。
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