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第4話


 ◇◇


「チッ、忌々しい」



 魔塔の先輩魔導師から押し付けられた仕事の山を睨みつけながら、ルーカスは大きく溜息を吐いた。


 ルーカス・オルディル、十三歳。

 異例の十歳で魔塔入りを果たした稀代の魔導師と言われている。


 実際、学園を飛び級で卒業して魔塔入りが決まった時は、飛び上がるほど嬉しくて、期待と希望に胸が満ち溢れていた。


 ルーカスは物心ついた頃から緻密な魔力操作に長けていた。知識欲、探究心、好奇心が人より少しばかり高く、そんなルーカスを魅了したのが魔導具だった。


 魔術式を応用した回路を道具に刻み、意図した通りに動くことが楽しくて仕方がない。無限の可能性に満ちた魔導具に、ルーカスがのめり込むのも無理はなかった。


 ルーカスはグングンと頭角を表し、幼いながらに魔塔や魔法省から注目されるようになっていた。


 より多くの人に汎用的に使用されるものはもちろん、需要は限られるが、ごく一部の人々の困りごとを解消する魔導具を作りたいと思い、魔導具開発に没頭した。


 魔塔に入れば自らの研究室が与えられ、より優れた環境で魔導具の開発に専念できる。


 ルーカスは溢れ出る好奇心を抑えながら、魔塔の扉を叩いた。




 だが、魔塔での生活はルーカスが期待したものとは程遠かった。




 始めこそ十歳で魔塔入りしたルーカスを周囲は優しく迎え入れ、様々な知識や技術を授けてくれた。


 けれど、ルーカスは彼らの想像以上に優秀すぎた。

 一度教わったことは即座に習得し、それだけでなく、先輩魔導師が提唱して実装に向けて検証を重ねていた回路の不備を一目見ただけで指摘した。その上で、より洗練された回路に改善して、どんどんと特許を取得していった。


 ルーカスに仕事や成果を奪われた先輩魔導師たちが、彼を疎みやっかみ始めるのにさほど時間はかからなかった。当時の魔塔は年功序列で勤務歴の長い魔導師が尊ばれる環境であったのもよくなかった。


 ルーカスが魔塔入りしてから一年後には、回路を刻むための専用の魔導具を隠されることは日常茶飯事になっていたし、部品を隠されたり、わざと違う納期を知らされたりと、孤立無援の状態となってしまった。遂には魔塔の人間が倦厭しがちな書類仕事を押し付けられるようになった。


 ルーカスはただ、誰かの生活を少し便利にするような、使っていて思わず顔が綻ぶような、そんな魔導具を開発したいと思っていただけなのだが、それさえも叶わない状態に陥ってしまい、ひどく落胆した。


 回ってくる仕事といえば、温風機や保冷庫といったすでに普及している魔導具の量産や改良であった。もちろんそれも大切な仕事であるとは重々承知していたが、新たな魔道具の開発に携わることができず、一人で黙々と同じ作業を繰り返す日々はひどく色褪せて見えた。


 そんな日々が二年も続けば、ルーカスの心には暗い影が落ち、希望に満ち溢れて輝いていた黄金色の瞳も翳ってしまったていた。




 そんなある日、ルーカスは魔塔内でとある貼り紙を見つけた。


 二年に一度、魔塔主催で開催される開放市の出展募集の貼り紙だった。去年は大寒波により急遽延期となり、一年繰り越しての開催となっていた。


 貼り紙には、所属部署や勤続年数に関わらず、誰でも自由に参加できると記載されていた。


 ルーカスはすぐさま申し込みをして、久しぶりに魔導具の開発に没頭した。

 需要があるかは分からない。けれど、自分が作りたいと思うものをどんどん形にしていった。


 そして訪れた開放市当日。



「……ま、こんなことだろうと思ったよ」



 ルーカスに割り当てられた区画は、最も人通りが少ない入り組んだ先の角地であった。


 魔塔正面のメイン広場を中心に目玉の店舗が出店されている。もちろん開放市に訪れる人々もその区画に集中してしまう。


 塔の裏手で通路から外れた日の光も届かない場所に、果たして客は訪れるのだろうか。



(ちくしょう。こんなことが続くなら、魔塔を辞めて家で子供の頃のように魔導具を触っていた方がずっとマシだ)



 大切に作り上げた魔導具たちをとりあえずは陳列するが、人の子一人訪れる気配はない。風に乗って魔塔正面の広場の楽しげな笑い声が聞こえてくるばかりである。


 ルーカスは胡座を組んで、その上に肘をついて唇を尖らせた。


 これ以上の妨害行為から自衛するために、帽子を目深に被って人の訪れを待つ。



「お母様、あっちにも店がある!」



 太陽がすっかり昇りきり、きっとこのまま誰も訪れないのだろうと半ば諦めかけていた時、メイン通りからよく通る明るい声が聞こえてきた。


 まさかこっちにくるはずがないと、視線を足下に落としていると、帽子のつばで狭まったルーカスの視界に小さくて可愛い靴が飛び込んできた。



「すみません! 見てもいいですか?」


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