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第6話

投稿内容が重複しておりましたので、改めて掲載いたしました。大変失礼いたしました。


 すっかり日が高くなり、汗ばむ季節となってきた。

 二十階建ての魔塔の最上階は、街で最も太陽に近い位置にある。


 だが、ルーカスお手製の魔導具により、最上階の空気は程よく循環され、熱気も篭らずに年中ちょうどいい気温と湿度を保っている。


 冬は底冷え、夏は湿気が酷かった地下のメンテナンス部の部屋と比べると、ここはとても過ごしやすい。


 穏やかな気持ちでメンテナンス依頼が入っている魔導具たちの状態を確認していると、バタバタと外が騒がしくなり、焦ったようなエリオットの声に続き、バンッと扉が開け放たれた。


 驚いてそちらを見ると、輝くようなブロンドヘアに南の海のように澄んだ青い瞳を持つ女性が堂々とした佇まいで執務室に入ってきていた。


 この場所は現在、ルーカスとシルファ、そしてエリオットのみが立ち入りを許されている場所だ。


 突然の来訪者の登場に呆気に取られていると、女性の後ろから疲れ果てた表情をしたエリオットが入ってきた。



「レストリッチ嬢、この部屋に無断で立ち入ることは許されておりません」


「うるさいわよ、エリオット。わたくしを誰だと思っておりますの? それにお父様から許可は取っておりますわ。正規の訪問よ」



 レストリッチと呼ばれた女性は毅然とした態度を崩さず、バサリと上質な羽根があしらわれた扇子を広げて口元を隠した。許可は取得しているという彼女を無碍に追い返すこともできず、エリオットは悔しそうに歯噛みしている。


 レストリッチといえば、歴史ある侯爵家の家名と同じだ。魔法省の重役にもそんな名前の人物が名を連ねていたはずだ。


 シルファはルーカスの妻として、どのように立ち振る舞うべきなのか。救援を求めようにも、ルーカスは今、書庫で調べ物をしている。


 シルファが戸惑い固まっているうちに、女性はぐるりと執務室を見渡して、シルファに目を留めた。



「わたくしが隣国に赴いている間に結婚したと聞いた時は驚きましたけれど、まさかこんな芋くさい子があの人の妻だとおっしゃるの? 断じて認めませんわ!」



 不快だと言わんばかりに表情を歪め、蔑むような目でシルファを睨みつけてくる。

 あまりにも敵意剥き出しな視線を受けて、シルファは思わず萎縮した。


 女性はカツカツと高いヒールの音を響かせてシルファのデスクの前までやってくると、ずいっと身を乗り出してシルファを真正面から睨みつけた。



「それで、どんな手を使って取り入ったのですか? 何か弱みでも握って脅したのでしょう?」


「なっ……!」



 失礼極まりないことを言われ、流石のシルファもカッと頭に血が上る。何か言い返そうと口を開くも、口を挟む間もなく相手はベラベラと喋り続ける。



「わたくしはマリアベル・レストリッチ。お祖父様は魔法省で重要な役職についておりますの。代々偉大な魔法使いを輩出してきて、わたくしもルーカス様には及びませんが、潤沢な魔力を有しております。きっと、魔力の強い有望な子供を産むことができますわ」



 マリアベルと名乗った女性の主張に、頭を殴られたような衝撃が走った。


 彼女は格式高い侯爵家の生まれで、身内に魔法省の重役がいて、彼女自身の魔力量も豊富だという。


 生家である子爵家とは絶縁状態で魔塔所属、身内といえば、すでに縁は切れているが、資産を食い潰す化け物となった継母と義妹がいるのみで、魔力を外に放出することができないシルファとは正反対のお嬢様だ。


 本来ならば、シルファはルーカスに釣り合っていない。チグハグな夫婦なのだ。そもそもルーカスが退行魔法で少年の姿になっていなければ、シルファとの縁も繋がらなかったはずだ。


 本来であれば、ルーカスの隣にはマリアベルが――そう想像して、ずきんと胸が痛んだ。


 全身の血の気が引いていくシルファを品定めするように上から下まで視線を滑らせてから、マリアベルはフン、と鼻で笑った。



「正論を前に言い訳すらできないご様子ね。そう、分かったわ。あなたはただの『繋ぎ』なのですね。わたくしが帰国したからには、ルーカス様の妻の座はわたくしのもの。あなたの役目は終わりました。今すぐ出ていってくださらない?」



 マリアベルは扇子をシルファに向け、邪魔者を払うようにパタパタと上下させた。


 重たい風がぬるりとシルファの頬を撫で付ける。



「あら?」



 マリアベルは、シルファがギュッと両手に握りしめていた冷風機に視線を落とした。



「その冷風機、回路が欠損しておりますわね。随分魔力が滞留しておりますわ。そんなものさっさと捨てて新しいものに買い換えればいいものを」



 まるでゴミでも見るかのような目に、シルファはたまらずにガタンと椅子を鳴らして立ち上がっていた。


 シルファを侮辱するのみならず、持ち主に大切に扱われてきた魔導具をも侮辱した。そしてそれはメンテナンスの仕事も侮辱するのと同義である。



「きちんとメンテナンスすれば、この冷風機はまだまだ使えます。何でもかんでも新しいものに買い換えるのが美徳だとは思いません。物を無駄にせず大切に扱う心こそ美しく、尊ぶべきものです」



 真っ直ぐにマリアベルの青い目を見つめ返す。マリアベルは反論されるとは思っていなかったようで、僅かにたじろいだが、すぐに胸を反り返らせた。



「それは貧乏人の考えですわ。貴族たるべきもの、率先して新しい魔導具を生み出し、使用することで、国の発展に寄与しておりますの。あなたのような愚鈍で質素なお方には到底理解できないでしょうけど」



 マリアベルは口元に手を添えて高笑いをした。


 確かに彼女の言うことも一理あるかもしれない。けれど、国の発展のために生み出された魔導具たちを蔑ろに扱っていいはずがない。


 シルファが震える拳を握って口を開こうとした時、バンッと続き部屋への扉が開いた。


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