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第3話


「ル、ルーカス様っ!?」



 カッと顔が熱くなり、目を白黒させるシルファを閉じ込めるように、ルーカスは腕の力を強める。



「始まりこそ互いの利のためだったが、俺はシルファをとても大切に想っている。直接的な言葉は、元の姿に戻るまで言うまいと自らに課しているのだが……俺の気持ちは、きちんと君に伝わっているだろうか」



 少し掠れた声で囁かれた熱い吐息が耳元をくすぐる。


 ルーカスはいつだってシルファに誠実だ。


 毎日一緒に時間を重ねてきて、シルファは確かに彼の愛情を感じている。それは単にシルファを利用するためのものではなく、心からの気持ちであるとそう信じている。


 それに、シルファの中で芽吹いていた彼への想いは、とっくに胸いっぱいに咲き誇っている。



「……はい」



(私は、ルーカス様をお慕いしています)



 続く言葉は胸の内にしまい込む。ルーカスが元の姿に戻った時、きっと言葉にして伝えよう。


 今はせめて、シルファの気持ちが伝わるようにとルーカスを抱き締め返す。

 少し早い互いの鼓動が溶け合って、心地いい。


 まっすぐ直向きに気持ちを向けてくれる人がいるということは、なんと幸せなことなのだろう。


 父を亡くした時、シルファは他者との関わりを一度諦めた。けれど、こうして新たな絆が紡ぎ直された。これはもはや奇跡にも近いことだと、シルファはそう思う。


 目を閉じて、両手一杯にルーカスからの愛を感じていると、彼は突然深いため息を吐いた。



「……はあ、今、無性に君に口付けがしたい」


「ええっ!?」



 咄嗟に身体を離してルーカスの表情を窺った。彼は少し唇をへの字にして、不貞腐れた様子で頬を染めている。



「だが、この姿ではしない。元の姿に戻るまでは我慢する。……君と婚姻を結ぶまでは、子供の姿でも特に不自由はないと思っていたが、今は一日でも早く元の姿に戻りたいと思っている」


「ルーカス様……」



 熱を帯びたルーカスの瞳。彼の言わんとすることが分からないシルファではない。


 ドキドキと胸が高鳴り、黄金色の瞳から目が離せない。



「ルーカスでいい」


「ルーカス……?」


「ああ、そうだ」



 ルーカスはフッと微笑み、シルファの頬に手を添えた。


 先ほど口付けはしないと言ったばかりなのに、なぜか眼前にルーカスの真剣な顔が迫ってくる。


 思わず息を呑み、ぎゅうっと目を閉じたと同時に、ふにっと唇に何かが触れた。


 息を止めたまま恐る恐る目を開くと、そこには悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべたルーカスがいて、シルファの唇を親指でなぞった。



「あ……」



 何をされたのかを悟り、急速に顔が熱くなっていく。



 ルーカスは、彼の親指越しに――シルファにキスをしたのだ。



「し、しないって言いました!」


「してはいないだろう」


「ぐぬぬ……」



 真っ赤な顔で反論するも、ルーカスは楽しそうに笑うばかりだ。


 自分ばかりが翻弄されている気がする。狡い。そう思いながらも不思議と嫌な気持ちにはならない。



「さあ、眠れないのなら、添い寝をしてやろう」



 そう言ってルーカスは、真っ赤な顔で抗議の視線を向けるシルファの肩を優しく押してベッドに横たえた。

 そのままするりと自分も布団に潜り込んでくる。

 布団の中で再び優しく抱きしめられ、ルーカスの温もりを感じて心に安心感が広がっていく。



「シルファ、この魔導ランプのことなのだが……」


「ランプ……? ああ、これは私の宝物です」



 不意に口篭りながら問われ、シルファは肩越しに目だけを魔導ランプに向ける。そして懐かしげに目を細めた。



「幼い頃、魔塔の開放市で実母に買ってもらって……それ以来ずっと、私が自分でメンテナンスをして大事に使ってきました。これだけは手放したくないと、どうにか継母から守り抜いて……眠れない夜も、この音色を聞いていると……眠く……」



 もう十年以上も前のことだ。あの日のことは忘れられない。


 幼いながら魔導具に強い関心を持つシルファを開放市に連れて行ってくれた母と回った

 魔法の世界はキラキラと輝いていた。そこはシルファにとって、本当に夢の世界だった。


 その中でもとりわけシルファを惹きつけたのが、この魔導ランプだった。

 あの日は店番の少年しかおらず、製作者に直接お礼を言うことは叶わなかった。

 少年は帽子を目深に被っていたので、その表情や瞳の色は見えなかった。帽子から覗く髪色が黒かったことだけは覚えている。


 製作者の魔導師は、今も魔塔で働いているのだろうか。

 いつか会えたら、お礼を言いたい。ずっと、ずっとシルファを支えてくれた大切な宝物だから。



 幼き日の幸せな記憶を胸に抱きながら、いつしかシルファは夢の世界へと落ちていった。


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