**隠された日記** 完結編
本日で完結になります
少し長くなりますがよろしくお願いいたします
調査が終わった2日後に判定会は行われたーーー
しかし結論は、結果が出ないという結果だった
判定会でSさんの情報を紹介した時、同席した看護師と介護士は周囲のリアクションを探り沈黙していた。
その他の看護師、介護士、リハビリ(PT、OT)、薬剤師、施設ケアマネ、そして医師…
私から経緯の話、看護師からは障害の状況、介護士からは介護時の注意点、それらを集約した書類を見ながら、それぞれがSさんを想像していた。
想像が膨らみ、皆の脳裏には(どうやって対応するのか?)その答えが出せない…
意見交換を基本とする判定会が無言の集会に変わってしまった…
“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”“”
沈黙をやぶったのは医師だった
「医学的に見たら、維持期に入っているね…リハビリもどこまで効果が出せるか…介護負担も…受け入れが可能かどうかは現場の対応力…それ次第になるんじゃないか?」
最終判断は医師になるが、その医師から判断を委ねられた
そして、そこにいた職員も(不用意な発言はできない)と判断した結果
「護介さん…看護師長と介護長に相談してもらっって、看護師長と介護長が受けるって言ったら私達はそれに従います」と言われ、判定会議は終わった。
(責任の擦り付けあいみたいな事しやがって…)
少し苛立ちを感じたが、介護経験もある身としては気持ちは理解できた。
相談員となった今、直接介護するのは介護職員、看護師等の現場で働く人たち…相談員として働く者として、珍しくないジレンマを抱えながら、看護師長と介護長が2人揃う時間を探した。
判定会が終わったその足で、介護長の元へ行ったーーー
「介護長!すみません…今日判定会だったんですけど………
ここまで言った途端に介護長は被せてきた
「Sさんの件じゃない?」
「え?ご存知だったんですか!?」
「同行訪問したR介護士からね…Sさんを受け入れるとしたら、相当な介護負担になりそうだって…」
「そういう事か…それで介護長はどう考えますか?」
「介護だけの問題じゃないからね…明日なら看護師長いるから3人で相談しますか?」
(先手を打たれたのか?予防線を張られたのか?)
不安を感じながら、明日14時の相談室
事実上、本番の判定会が行われる事になった。
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久々に寝られなかった…
娘さん…御家族の話を直接聞いている相談員という立場…
御家族の感情を直接浴びるため、何かの使命感を感じながら相談員としての業務をを進めていく…
こんな事は…今まで何度も経験してきた
しかし今回は少しだけ違っていた…
護介がこのSさんの仕事が思い通りにいかず、眠れなくなった理由は、娘さんの涙の理由に大きく影響されたからだ
そして食欲も感じないまま、14時までたどり着く
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相談室に3人が揃うーーー
看護師長が揃った瞬間に口を開く
「胃瘻の対応…介護も手伝えるかな?」
介護長がそれを追う
「もちろんそれは対応しますよ」
看護師長は介護長の返事を予想していたように反応を返す
「そうなんだよね…私達はいいのよ…結局さ…いつも私たちがいる訳じゃないからね…情けない話だけど、ハッキリ言って(手がかかる)って事じゃんね…同じ介護度で、寝たきりで…決まった時間でオムツ交換をする、お風呂に入れる、食事介助する、施設のペースで介護ができる人が入所してきても、施設の収益は変わらない…ただ現場の負担が大きくなるだけ…だもんね」
これにも介護長は共感する
「だったら(手のかからない)利用者を選んで入所させればいい…なんでわざわざ…こんなに手のかかる人を受け入れしたのか?って反応するんだよね…何を求めてこの仕事を選んだんだか…」
2人の気持ちが、私の何かに影響して口が開いた
「聞いてもらってもいいですか?」
2人は言葉の返事など野暮なことはせず、聞く姿勢と目線で答えてくれた。
「娘さんが初めて施設に相談に来た時、娘さんから聞いたんですけど…入院したばかりの時はバタバタしていて…しばらく経ってから、着替えとか整理するためにタンスとかを開けていたら、一冊のノートが出てきたみたいで、その内容が…1回目の脳梗塞以前から付けられていた日記のようなものだったみたいで…問題は1回目の脳梗塞の後から書かれていた内容なんですけど…娘さんから聞いて…後日、直接見させてもらったんですよね…」
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(○月○日、入院して3日目、歩いたりすることは大丈夫そう…手の痺れだけが気になる)
(○月○日、医者から後遺症がつきものと言われた、多分この手の痺れもその一つなんだろうか…心配はかけさせたくない、でもこの手で裁縫の仕事を続ける自信はない。それよりも、入院して同じ部屋になった人達の事が忘れられない、脳の病気になると、あんなになってしまうものとは思わなかった。
(○月○日、無事退院した、予定通り店は閉じることにする。)
(○月○日、子供達へ、このノートを保険証と通帳を一緒に置き、私がまた病気になった時、読んでくれることを願います、私がまた脳梗塞や大病を患った場合、一切の延命処置は望みません!私の意識がない場合は、なるべく人に迷惑をかけない方法を選んでください!一緒に置いてある通帳は好きに使ってください、当面の入院費には使えるはずです。お願いします)
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「娘さん…胃瘻を造設したこと…凄く後悔していました…」
沈黙は一瞬だけあったが、その一瞬を切り裂くように介護長が放つ
「受け入れよう!」
「大丈夫ですか? いいんですか?」
結論がなかなか出なかった今までのモヤモヤとした気持ちは、この一瞬の決断に私の切り替えが追いつかず、感謝や喜びよりも混乱が上回った。
看護師長も反応する
「後のことは、なんとかなるでしょ!」
「うん!もし変なリアクションする職員がいたら…それはそれで良い経験にになると思う!それでも文句言うなら、その職員はこの仕事に向いてないね!」
介護長の評価基準は厳しく聞こえたが、表情は当たり前の顔をしていた。
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こうしてSさんは施設に入所する事になった。
看護師長と介護長の想定内のリアクションが起きた、3ヶ月間は荒れた。
半年後、どこからともなくノートの話が施設内に浸透していった…
批判する職員は長く存在したが、少数になった途端に急に小さくなっていった…
介護長はこれを予想していたのか?
介護職と看護職に壁のような異物が生まれがちな介護施設
Sさんの介護は看護と協力し合って成立する…
以前よりも壁が薄くなったような気がした
看護師長はこれを予想していたのか?
Sさんが望んだ、(人に迷惑をかけない)という言葉が守られたのかはわからない…
私達は迷惑などと思っていないけど、それはSさんが決める事だから…
でもSさんから色々なものを学ばせて頂きました!
時間は戻らないし、Sさんが回復することもない
でもノートの内容からSさんの気持ちをできるだけ尊重したいと思っています。
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施設生活が落ち着いた頃、娘さんからSさんが写るアルバムを見せて頂いた
そこには、お店の前に立つ、お世辞など考える間も与えない美人のSさん!
目を疑う程だった…ハッキリ言って別人…美人に見惚れたのは一瞬だった…
あまりの変容ぶりに、現実の厳しさ…病気の恐ろしさ…
この仕事をして…知ってるつもりになっていた。
考えを改め反省した、まだまだ何も私はわかっていなかった…
今まで全てのブースで話を聞いて頂いた方…
これまでの時間を費やしても、このお話しをどこまで伝えられるのか?
(私の文章力(技術的)な問題は自覚しております、すみません)
わざわざ(裏口)から御案内しておりますので…
危機感と現実感をより感じて頂ければ……幸いです…
当然ですが(Sさんの個人情報は十分に配慮した上で書いていますが、話の核たるものは事実になります)
※尚、一度造設した胃瘻は外すことは難しいです
これはまた別のブースにて……
そして、相談員は、ご家族の想いと現場との間に挟まれ、離職率(精神的に病んでしまう職員等)が高い職種になっています
そうです!貴重な人材なんですけどね……
作中に登場した看護師長と介護長、美化して着色しておりません!
私は相談員として恵まれた環境だったんだと、この数年後に気付かされました。
F看護師長とY介護長
そして何よりもSさんとそのご家族に感謝を込めて!!
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まだまだ裏口は奥に続いております………
くれぐれもお気をつけてお進みください……
(文学で投稿しておりますので、今後はブースと共に、実際のお話も、この様な形でお送りしていきたいと思っております)
それでは
またお会いしましょう♪




