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ヴァラール魔法学院の今日の事件!!

愉快な聖夜のプレゼント交換会

作者: 山下愁

 本日、アイゼルネの誕生日であると同時にクリスマスである。



「という訳で!! プレゼント交換会、開催!!」


「いえーい」


「いえーい!!」


「いえイ♪」


「い、いえーい」



 ヴァラール魔法学院の用務員室に拍手の嵐が起こる。


 中心となっているのはヴァラール魔法学院の問題児筆頭にして主任用務員、ユフィーリア・エイクトベルである。銀髪で覆われた小さな頭には真っ赤なサンタ帽子が乗せられており、真っ白なお髭と鼻眼鏡も装備するという美女の欠片も感じられない阿呆な格好をしていた。

 同じ格好をしているのは用務員として勤務歴の長いエドワードと、暴走機関車野郎と名高いハルアだった。南瓜の美女であるアイゼルネはミニスカサンタの格好をし、異世界出身の女装メイドのショウは真っ赤なワンピースとエプロンドレスを身につけた『サンタクロース風メイド』となっていた。


 さて、問題児が主催する嫌な予感しかしないイベントに無理やり招待された面々は彼らである。



「何で僕たちまで」


「まあまあ、暇だからいいじゃないッスか。グローリアだってクリスマスを呪っていたでしょ?」


「そりゃそうだけども!?」



 ヴァラール魔法学院の学院長、グローリア・イーストエンドは頭を抱えた。

 可哀想なことに、彼は副学院長のスカイによって無理やり連行された訳である。しかも「3000ルイゼで何かプレゼントを用意しろ」とお達しだ。これは問題児側が指定した金額である。


 魔導書図書館の司書を務める魔女、ルージュ・ロックハートは困ったように言う。



「事前に言ってくださればもう少しいいものを用意したんですの」


「君のプレゼントなど碌なものではなさそうだが」


「あら貴方は随分と地味なプレゼントですのね」



 ショウの実父であり冥王第一補佐官を務めるアズマ・キクガとルージュはいつものように睨み合う。バチバチと2人の間で紫電が散っていた。



「何故にプレゼント交換なのじゃ?」


「身共も用意できるものを用意いたしましたが……」



 未だに状況が読めていない白狐の八雲夕凪と、純白の聖女様であるリリアンティア・ブリッツオールはプレゼントの箱を片手に首を傾げていた。


 確かにプレゼント交換会と言ったが、ユフィーリアには馴染みのないものである。このイベントはショウが異世界知識として提案してくれたことだ。

 何でもクリスマスには一定の金額以内に用意したプレゼントをくるくると回して、ランダムなプレゼントを手に入れるイベントが通例らしい。それが『プレゼント交換』なるイベントだ。しかも金額内に収まることが出来るなら何を用意してもいいという非常に面白いこと極まりない異世界文化なのだ。


 ユフィーリアはイキイキとした声で、



「それではショウ坊、説明を頼むぞ」


「ああ、任された」



 ショウは真剣な表情で頷き、



「プレゼント交換は、全員で円形に並んで歌いながら隣の人にプレゼントを回していきます。歌が止んだら回すのを止めてください、最後にお膝の上に乗ったプレゼントがもらえます」


「何だ、簡単なんだね」



 グローリアは納得したように頷き、



「じゃあ学院長である僕が歌を」


「おい誰かアイツの口を塞げ」


「学院長、ケーキがあるよぉ」


「クッキーも詰め込んであげるね!!」


「もがごぼッ!?」



 何やら恥ずかしそうにそんなことを申し出てきやがったグローリアの口にエドワードがケーキを詰め込んで、追い打ちをかけるようにハルアがジンジャーブレッドマンクッキーを突き刺す。相手は苦しそうにもがいていたが、彼が歌えば鴉が墜落するほどのキングオブドオンチに歌わせる訳にはいかない。



「安心してください、歌に関しましては俺とハルさんで練習しました。自信ありです」


「自信あります!!」



 問題児の未成年組であるショウとハルアがそんなことを申し出てくれる。

 ショウとハルアは身内贔屓になってしまうかもしれないが、歌が上手いのだ。2人のコンビネーションは抜群のようで、よく異世界の歌をショウに教えてもらいながら歌っている光景を見かける。未成年組であれば歌唱力に期待できるだろう。


 そんな訳で、



「はい、お前ら。円形に座れ」



 ユフィーリアの命令によって、プレゼントを持った全員が円形状に並んで座る。これでプレゼント交換の準備は完了だ。



「じゃあショウ坊とハル、任せたぞ」


「ああ」


「任せて!!」



 ショウとハルアは元気よく返事をする。彼らの表情もどこかワクワクとした雰囲気が感じられた。



「じゃあせーの」


「せーの!!」



 ショウとハルアの号令によって歌が始まる。



「「死ね死ね死ね死ねしーね死ね、死ね死ね死ね死ねしーね死ね」」



 何か呪詛のような歌を奏で始めた。



「待て待て待て待て」


「ストップストップストップストップ」


「え?」


「え!?」



 ユフィーリアとグローリアが待ったをかければ、未成年組は「何で止めたの?」と言わんばかりの反応を見せる。

 だっておかしくないか。今日はめでたいアイゼルネの誕生日とは別口でクリスマス恒例行事の異世界文化『プレゼント交換』なるものを実践しようとした暁にこれである。「死ね」を連呼しながらプレゼント箱を回していくとか何の呪いの儀式だ。


 グローリアは泣きそうな表情で、



「おかしいよ!? 何で楽しいクリスマスの時期に『死ね』を連呼した呪いの歌でプレゼント交換をするの!?」


「何か気に食わないことでもあるのかね、ショウ? やはりこの真っ赤なクソをプレゼント交換会に招待したのは間違いでは?」


「何故に流れ弾がこちらに向けられるんですの?」



 ルージュがジト目でキクガを睨みつける。初っ端に喧嘩を売ったキクガはツンとそっぽを向いて誤魔化していた。



「いや、別に何か不満がある訳ではないのだが。これがクリスマスのプレゼント交換の定番ソングなのだろう?」


「オレもショウちゃんからそう教わったよ!!」



 キョトンとした表情でそんなことを言うショウとハルア。どうやら彼らは、この呪いの歌こそが定番だと誰かから入れ知恵されたらしい。

 特にショウだ。このプレゼント交換の知識を披露したのはショウなので、ショウの知識そのものが頼りになる。その根本が誰かによる悪いことが吹き込まれていたら洒落にならない。


 ユフィーリアはショウの両肩を掴み、



「ショウ坊、悪いことは言わねえからその歌は忘れろ。いいな?」


「でもマツノ君から教えてもらったんだ。『クリスマスのプレゼント交換をする時は、世の中に恨みつらみを込めてリア充爆発を願いながらこの歌を唄うんだ』って」


「誰だよマツノ。悪いお友達か?」


「いや他校で知り合った同級生で、6人ぐらい兄弟がいる大家族だって」


「凄えいるな、いやそうじゃなくて」



 嫁の純粋な眼差しを、頭を振って追い出したユフィーリアは説得にかかる。



「楽しい雰囲気を壊すような歌は避けよう、ショウ坊。他に何か候補はあるか?」


「他のクリスマスソングか……」



 ショウは遠い目をすると、



「クリスマスプレゼントと称して性的暴行してきた叔父さんのことを思い出すからあまりいい思い出はないな……」


「よーしお前ら、死ねソングでプレゼント交換だオラァ!!」


「やっぱ時代は死ねソングだねぇ、流行の最先端だよぉ」


「今なら心を込めて歌えるワ♪」


「ショウちゃん、オレも心を込めて歌うね」


「ありがとう、おかげで楽しいクリスマスが過ごせそうだ」



 最愛の嫁の精神の均衡とクリスマスソングで楽しい気分をぶち壊しを天秤にかければ、圧倒的に『嫁の精神の均衡を保つこと』に傾く。意地でも傾けてやる所存だ。

 他の連中も「それなら仕方がない」と納得していた。七魔法王でもさすがに幼い子供(当社比)の精神を崩壊させるのはよくないと思ったのだろう。よく考えれば生まれてから15年しか生きていない少年に酷な運命を課しすぎだ。


 さて、気を取り直してプレゼント交換再開である。



「はい、じゃあせーの」



 ユフィーリアの号令の下、今度は全員による呪詛ソングが響く。



「「「「「死ね死ね死ね死ねしーね死ね、死ね死ね死ね死ねしーね死ね」」」」」



 この間、全員揃って虚無の顔でプレゼントの箱を右隣の人に回していっている。「何してんだろうな」と言いたいだろうが、これもショウの精神均衡を保つ為には必要な犠牲である。

 まあ、別に「死ね」を連呼しても問題児の精神に傷などつかないのだが、この呪いの儀式現場を目撃されるとやべえのだ。特に七魔法王側は沽券に関わるだろうし、聖女のリリアンティアは「悪い言葉だから身共は言えません……ああでもショウ様のお心が……」と葛藤している様子だった。強制はしていないのだから歌わなければいいだけの話である。


 そして、このまま呪いの歌を続けていたら埒が開かないので止めることになった。



「はい終わり、終了」


「皆さんプレゼントを回すのを止めてください」



 ユフィーリアとショウの声かけにより、虚無のままプレゼントの箱を回す作業が終了した。


 全員の手元には綺麗に包装されたプレゼントの箱がある。大きさはそれぞれだが、文庫本サイズのものから一抱えほどある大きな箱まで様々だ。中身はユフィーリアが指定した『3000ルイゼ以内のプレゼント』が入っているはずである。

 ようやく虚無の歌から解放されて、全員してどこか安堵の表情を浮かべていた。いつまでも「死ね」を連呼する呪いの歌を奏でていれば、今度はこちらが精神をおかしくする羽目になる。


 ユフィーリアは自分の膝に置かれた青色の包装紙が巻かれた箱を手にして、



「自分の箱が届いた奴はいねえな?」


「全員違うのだねぇ」



 エドワードも赤い包装紙が特徴的な一抱えほどもある箱を掲げる。なかなか立派なプレゼント箱だ。



「じゃあ先に誰から開ける?」


「はい!!」



 ユフィーリアの呼びかけに対して挙手をしたのはハルアだった。琥珀色の瞳を爛々と輝かせて、緑色の箱を手にしている。



「オレ開けていい!?」


「おう、覚悟をしろよ。爆発するかもな」


「吹っ飛ばされても生き返るから平気、多分!!」



 随分と自信のない物言いだが、ハルアは遠慮のない手つきで包装紙を破る。包装紙の下から現れた真っ白な箱の蓋を開けると、中身は真っ赤な台座に置かれた瓶やブラシである。

 よく見れば瓶に表示されているのは髪の毛用の香油であり、ブラシも毛艶をよくする為に魔猪の毛が使われているようだ。魔女御用達のヘアケア用品である。


 その商品を確認すると、グローリアが「あ」と声を上げる。



「それは僕だね」


「オレ、髪短いのに嫌がらせなの?」


「交換なんだから仕方ないでしょ!!」



 非難するような視線を寄越すハルアに、グローリアが言い返す。



「3000ルイゼ以内だから香油とブラシでちょうどよかったしね。毛艶もよくなるし、君にちょうどいいんじゃない?」


「嫌味?」


「何で悪い方向に捉えるの!?」



 ジト目で学院長を睨みつけていたハルアは「まあいいや、ショウちゃんと一緒に使おう」と呟く。品物自体に嫌なことはないらしい。



「それじゃあ次は俺ちゃんが開けるねぇ」


「挑戦者だな」


「別にこの面子で外れを寄越してくるような奴はいないでしょぉ」



 次にプレゼント開封をすると宣言したのはエドワードである。彼の膝上には一抱えほどもある赤い包装紙が特徴のプレゼント箱があった。箱の大きさも相まって中身に期待が出来そうである。

 エドワードは丁寧に赤い包装紙を箱から引き剥がし、閉ざされた蓋を開ける。中身は畳まれた赤い布であり、エドワードは箱から赤い布を取り出して広げてみた。


 それはミニスカサンタの安っぽい衣装である。明らかに女性用であることが伺えた。デザイン的にも露出が多く、なかなかセクシーな衣装である。



「あ、それは儂じゃ」



 用務員室が凍りつく中で、送り主である八雲夕凪が「つまらんのぅ」と唇を尖らせる。



「せっかく美人がこうも勢揃いしておるのじゃから、その美人さんが引き当てれば眼福だったのにのぅ」


「…………」



 八雲夕凪の邪な発言に、その場にいる全員からの非難の目線が突き刺さる。むしろ、エドワードが引き当ててよかったのかもしれない。


 その発言を受けたエドワードは、何を思ったのか唐突に立ち上がる。それからミニスカサンタの衣装を握りしめ、用務員室の隣にある居住区画に姿を消した。

 かと思えば数十秒後、荒々しく居住区画の扉が開かれる。現れたのはミニスカサンタの衣装を身につけたエドワードだ。胸元の布地はぱつんぱつんに張り、ミニスカートから伸びる太腿は丸太の如き太さがある。苛立ちもあるのか、顔も若干怖かった。


 エドワードは八雲夕凪の肩に手を回し、



「ご希望のミニスカサンタちゃんですぅ、可愛がってねぇ」


「嫌じゃ!! 何故にこんなムキムキ筋肉サンタを可愛がらねばならんのじゃあ!!」


「テメェが余計なものを寄越してくるからだろうがよ」


「イダダダダダダ首が首が絞まってるのじゃあ!!」



 余計なことをしでかしてくれた八雲夕凪に、エドワードのチョークスリーパーが送られる。気絶まで秒読みである。



「じゃあ次は僕が開けようか。何だか怖いし」


「あ、じゃあボクも開けるッスよ」



 次に開封を宣言したのはグローリアとスカイの2人である。どちらも似たような一抱えほどもある箱だが、重量はグローリアの方が重しらしい。「何か重い……」と不思議がっている様子だった。

 包装紙を破って箱を開封すると、グローリアは頭を抱え、スカイは「おお」と嬉しそうな反応を見せた。どちらも真逆の反応だ。


 まずグローリアがプレゼント箱から品物を取り出し、



「ダンベルなんだけど」


「あ、それ俺ちゃんだねぇ」


「だと思った!!」



 グローリアが獲得したのは『5キル(キロ)のダンベル』である。確かにダンベルだけならば3000ルイゼに届きそうなもので、脳味噌まで筋肉が詰まったエドワードらしい品物と言えよう。貧弱なグローリアには打ってつけの品物だ。



「ボクはマグカップとマドラーッスね」


「あ、それは俺です」



 スカイが箱から取り出したものは、黒猫の絵が描かれたマグカップとマドラーのセットだ。どちらも可愛らしいデザインである。

 選んだ張本人であるショウは「副学院長、猫さん好きだからよかった」と安堵していた。動物アレルギーのせいで猫に触ることさえ出来ないスカイにとってはとても素敵なプレゼントを引き当てたことだろう。


 次いでプレゼントを開封したのは、



「私は手袋な訳だが」


「身共はマフラーです!!」



 キクガが獲得したのは革製の手袋だ。大人びた黒っぽいデザインの手袋は彼によく似合う。大きさもピッタリな様子で、早速手に装着していた。

 一方でリリアンティアは真っ赤なマフラーを巻いていた。何も模様はないシンプルなマフラーだが、もこもこの毛糸素材で編まれたマフラーはとても暖かそうである。


 2人のプレゼントを贈ったのは、



「手袋はオレ!!」


「マフラーはわたくしですの。手編みですのよ」


「リリア君、肌が荒れたりしたらすぐに使用を止めなさい」


「市販の毛糸で編みましたの!!」



 キクガの身につける手袋はハルアから、リリアンティアの引き当てたマフラーはルージュからの贈り物だった。2人揃ってなかなかセンスのいい品々である。

 だがキクガとルージュの仲の悪さは相変わらずで、睨み合いが絶えなかった。睨み合っていても仕方がないのに。


 キクガとルージュがいがみ合う側で、エドワードが気絶した八雲夕凪に代わってプレゼントを開封する。



「あらぁ、オルゴール?」


「ボクッスね」



 八雲夕凪が引き当てたプレゼントの贈り主はスカイだった。オルゴールとはまた魔法兵器エクスマキナに強い彼らしいプレゼントである。

 ドーム型のオルゴールはゼンマイで動くようになっており、試しに鳴らしてみると綺麗な音楽が奏でられていく。透き通るその音は、心を洗っていくかのようだ。


 エドワードはショウにオルゴールを手渡し、



「ショウちゃんにあげるねぇ」


「え、でも」


「どうせ碌なことじゃないからぁ」



 八雲夕凪がオルゴールを楽しむような風情ある狐だとは考えられない。エドワードの堂々とした横流しは無難な判断だ。

 ショウはオルゴールを仕方なさそうに受け取る。目の前で横行したプレゼントの強奪にどう反応してもいいのか困惑している様子だが、相手が八雲夕凪だと判断すると「まあいいか」とメイド服のポケットにしまい込んでいた。


 オルゴールを受け取ったショウは、さらに自分の箱を開封する。



「押し花の栞と、タオルセットと石鹸ですね」


「それは身共です」



 ショウが引き当てた箱から取り出されたものは、ふわふわそうなタオルと可愛らしい花の形をした石鹸のセットである。ついでに押し花の栞まで用意されており、手作り感がまた粋のあるものだ。

 贈り主はリリアンティアからである。彼女も彼女なりに一生懸命考えてプレゼントを用意したのだ、純粋無垢なリリアンティアらしい品物だ。


 次々とプレゼントの贈り主が判明していく中で、次に開封したのはルージュとアイゼルネだ。



「あら、素敵な髪飾りですの」


「あらやだ、万年筆だワ♪」



 ルージュが引き当てたのは赤い花の髪飾りである。薔薇の花の周りには繊細なレース細工などを施し、赤色が好きなルージュにピッタリだ。

 そしてアイゼルネの手には高級そうな万年筆が贈られた。金細工が施されたそれは3000ルイゼでは収まらないような代物である。見た目から溢れる高級感が持つことを躊躇わせる。


 それらの品々の贈り主は、



「髪飾りはアタシだぜ」


「万年筆は私だ」


「朴念仁のくせにセンスのいいものを選びますの」


「喧しい」



 再びルージュとキクガによる喧嘩が勃発してしまった。懲りない連中だ。


 さて、残るはユフィーリアのみである。膝にあるのは青色の箱だ。

 それほど大きな箱ではなく、重さもそこそこ軽い。包装紙を丁寧に剥がすと高級感のある箱が隠されていた。何か見たことのない店の箱である。


 箱の蓋を開けると、



「グロス、と口紅か? あとハンドクリーム」


「あら、おねーさんのだワ♪」



 ユフィーリアが引き当てたものはアイゼルネからのプレゼントらしい。確かに彼女が選びそうなラインナップだ。

 口紅は色鮮やかな赤い色で、グロスは濃いめの桃色をしている。ハンドクリームは林檎の香りがするものを選んでおり、明らかに女性でなければ似合わなさそうなものばかりだ。まあ仮に男性が引き当てたとしても、ショウやキクガなんかには似合いそうだ。


 口紅の蓋を外したユフィーリアは、試しに赤い口紅を引いてみる。色鮮やかすぎて似合わないような気がしてきた。



「どうだ、アイゼ。似合ってるか?」


「あら素敵♪」



 アイゼルネは楽しそうな口調で言うと、



「むチュ♪」


「んぐッ!?」



 身を乗り出してくるなり、ほんの僅かに南瓜のハリボテを外したアイゼルネがユフィーリアの赤い口紅が塗られた唇を塞いできた。

 柔らかな質感の唇が強く押し当てられて、サッと離れていく。アイゼルネの左頬が大きく裂け、それでもなお美しさが損なわれない口元に赤い口紅が写ってしまった。


 アイゼルネは「うふフ♪」と笑い、



「素敵な誕生日プレゼントをありがとウ♪」


「アイゼさん、そこに跪いてください。ユフィーリアとちゅーなんて許しません」


「女の子のじゃれ合いじゃないノ♪」



 地雷を踏み抜かれたショウが大暴れをした影響で、愉快なプレゼント交換会は幕を閉じたのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】アイゼルネのプレゼントを引き当てた。自分は誰が引き当ててもよさそうに、でもショウに引き当ててもらったら嬉しいなという意味合いで髪飾りにした。

【エドワード】八雲夕凪のプレゼントを引き当てた。筋肉野郎なので筋トレ道具を選んできた。誰でも使えるように軽めなものをチョイス。

【ハルア】グローリアのプレゼントを引き当てた。自分のものは手袋にした。誰がもらってもいいようにフリーサイズのもの。

【アイゼルネ】キクガのプレゼントを引き当てた。女性陣ならいいなという期待を込めて口紅などの化粧品を贈った。このあと、ユフィーリアを差し出してちゃんとショウと仲直りする。

【ショウ】リリアンティアのプレゼントを引き当てた。自分のものは誰が当たってもいいように無難なマグカップとマドラーのセットを選ぶ。アイゼルネと喧嘩をしてもちゃんと仲直りした。


【グローリア】エドワードのプレゼントを引き当てた。自分のものは髪に気を遣っている人間が多いので、そういったものを選んでいた。ダンベルをもらってからちゃんと運動はするようになる。

【スカイ】ショウのプレゼントを引き当てた。自分のものは自分の才能をフル活用してみた。黒猫のマグカップを得て一目で気に入った。

【ルージュ】ユフィーリアのプレゼントを引き当てた。自分のものはちゃんと手編みで用意した。編み物なら得意。髪飾りはもらってから大事につけさせてもらっている。

【キクガ】ハルアのプレゼントを引き当てた。自分のものは悩んで同僚にも相談した結果に選んだ。手袋は、最近冥府が寒いのでつけるようにした。

【八雲夕凪】スカイのプレゼントを引き当てた。自分のものはウケ狙い、あと女性が身につけてくれるのではないかと淡い期待を抱いた。オルゴールが横流しされていることを知らない。

【リリアンティア】ルージュのプレゼントを引き当てた。自分のものはちょっと悩んで、購買部の黒猫店長にも相談した。

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[良い点] やましゅーさん、遅くなりましたがメリー・クリスマス!! 新作、楽しく読ませていただきました!! >「「死ね死ね死ね死ねしーね死ね、死ね死ね死ね死ねしーね死ね」」 朝一番に読んで、思わず…
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