第51話 タロとジロー
「ご主人様」
「ご主人ご主人!」
魔王を倒し、少しの間休息を取れた。
【シックザール・モンスター】自体は魔王を倒せば終わりではないが、ルカラが死ぬ本筋のシナリオが終わったことだし、そこまで切羽詰まった状況ではなくなったはずだ。
やっと興奮が冷め……
「ご主人様。タロのこと嫌いになったんですわん?」
「残念だったにゃ。ご主人はジローのことが好きなんですにゃ。にゃー?」
「そうなんですわん!?」
興奮が冷めない!
屋敷で見慣れたメイド服に身を包んだ少女が二人。さっきから俺のこと揺らしながらあーだこーだ騒ぎ続けている。
それに、タロはなんだか俺が反応を返さないから尻尾を下げている。
「いや、タロのことは嫌いになってないから。心配しなくて大丈夫だから」
「よかったですわん」
「本当ですかにゃ?」
「ジローはタロの不安をあおらないでくれ」
実際、嫌ではない。
ユイシャの説明通り、確実にメイド服の少女はタロとジローだった。
そして、じゃれてくるのはいつものこと。問題はない。
だが、何が起きてるんだよ! と言いたい。
マジで。
ルミリアさんやデレアーデさん以外で人型になるのは、アカトカも含めて俺は聞いていない。
「全く、タロよ。静かにするのじゃ。ルカラ殿が困っているであろう」
「そうだよ。ジローちゃんも。ルカラくんと仲良くしたいならもっと少し工夫をしないと」
「はいですわん」
「はーい」
長めのスカートから出た尻尾がしゅんとなったタロ。
反対に、短いスカートから立っている尻尾が見えるジローは反省しているのだかしていないのだか。あんまり気にしていないように見える。
誰も何も突っ込まないからなあなあにしてきてしまった。
魔王を倒したからという油断もあるが、ずっと放置はいかん。
そろそろ把握しないといけない。
「ルミリアさん、デレアーデさん。一度タロとジローと二人だけにしてくれませんか?」
「もちろん構わないのじゃ。ルカラ殿にも色々思うところがあるじゃろうからな」
「そうですね。それに、二人ともあたしたちだけじゃなく、やっとルカラくんと話せるようになって嬉しいだろうから、相手してあげてね」
「え? それって」
デレアーデさんたちは出ていってしまった。
さっきの発言。タロもジローも初めから言葉は話せたのか?
まあ、カラスも独自の意思疎通ができるとかって聞いたことがあるような。
いや、そのことは今はいい。
女の子になったらしいが、ちょっとあれだ。
「二人とも、どうして服がメイド服なんだ?」
ずっと気になっていた。
この際二人のスカートの丈はいいだろう。
正直、ジローのは動くと中が見えそうでヒヤヒヤさせられるのだが、そもそもだ。
他にも服はあったはずだ。
たとえ、耳や尻尾が明らかに生えているような見た目だったとしても、もう少し何かあっただろう。
「気になりますわん?」
「ふっふっふ〜。実はね、ご主人。この屋敷の人にもらったんですにゃ。着てなきゃ冷えるだろうからって。他にも色々ともらったんですにゃ」
言っちゃうの? という表情のタロを置いて、ジローは立ち上がった。
いつの間にか俺の部屋に増設されたクローゼットを開けると、そこから、なだれのように様々な服が出てきた。
どれもこれも基本はメイド服に執事の服。使用人の人たちが着ているものだが、なんだか怪しげなものが混じっている。
「他の姿がいいですにゃ? ならアレがいいにゃ」
「で、でもアレは……」
「ご主人ならむしろいいんじゃにゃいか?」
「まあ、ご主人様ならいいわん」
アレがなんなのかわからないが、俺が言葉を挟むより先に照れている様子。
にも関わらず、二人は急に服を脱ぎ始めた。
羞恥の基準が全くわからない。
元は犬猫みたいな姿だった訳だし、裸のようなものだが、それにしたって限度があるだろ。いや、デレアーデさんもそういえば着てなかったな。着てくれるだけありがたいのか? しかし……。
「じゃじゃーん! どうですにゃ?」
「に、似合ってますわん?」
服の山から再び現れた二人は、すでに白と黒の服を着ていなかった。
それぞれの毛の色、タロなら白のような、ジローなら紫のような色の、ビキニアーマー……。
「……」
タロは真っ赤に、ジローは自慢げにつけているが、どうしよう。どう反応すればいいのだろう。
なんでこんなものを置いてあるんだよこの屋敷は!
誰が買ったんだよホント。他にも色々あるし。
「ご主人様?」
「ご主人はメロメロですにゃ?」
「さ、さっきまでの服装のが二人に似合ってるよ」
「「はい!」」
なんとか言葉を搾り出すと、二人は嬉しそうに返事をしてまたも俺の視線も気にしないで服を着替え始めた。
自由過ぎて困るが、まあ、悪気があるようではないらしい。
外でこれをするとさすがにまずいだろうから教えておかないとだが、魔王も倒したしすぐに大きな問題もないはず。
大丈夫だろう。
「あれは誰ですにゃ?」
窓の外を指さすジローに俺も視線を向け、
「ジロー。人の姿で過ごすなら着替えてからにしてくれ」
「ごめんですにゃん!」
ぺろっと舌を出して謝ってくる。
「あざとく謝ってもダメなもんはダメだ。一回戻ってから服に潜り込めばいいんじゃないのか?」
その手があったかとばかりに器用に服を一瞬で着てしまった。まあ、人の姿で脱がないならいいか。
ひとまず外からも見えないさそうだし大丈夫だろう。
「あれは多分郵便の人だな。家の誰かに届けに来たんだろう」
「なんですかにゃ?」
「さあな」
このワクワクそうなのはなんでだ?
誰かが着せ替えでも買ってきてくれたのか?
「人の姿で過ごすなら人として守ることは守るように」
「わかりましたわん」
「ですにゃ」
まあ、最悪戻って貰えばいいだろうし、今はいいか。
見た目が変わっただけでタロもジローもそのままだったな。
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「家族を殺され、毒を盛られたTS幼女は、スキル『デスゲーム』で復讐する」
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