イザベルは可愛い(確信)
「イザベルー!」
「おはようございます、聖王猊下」
「おはよう!今日もいい朝だな!」
求婚した次の日、朝からイザベルの元へ行く。
「結婚に必要な書類の準備が整ったぞ!」
「はやっ」
「あとはイザベルの兄殿と兄嫁殿、それとイザベルのサインをもらうだけだ!結婚式の日に書いてくれればいいからな!」
「は、はい」
「それと結婚式の日取りが決まったぞ!」
まだ戸惑っている様子のイザベル。だが、受け入れてはくれているので今はそれで良いとしよう。
「い、いつですか?」
「一週間後だ!」
さすがにこれ以上は短く出来なかった。
「一週間後…じゅ、準備は?」
「そんなもの大聖堂の神官が全員総出で行なっているから問題ない」
「その間ほかの仕事は?」
「全て俺が肩代わりした!その上で全部片付けてきた!問題ない!」
俺はハーフエルフで魔力は多すぎるくらいだし、長く生きてきて事務仕事もお手の物である。魔法を使えば全て、チョチョイのチョイだ。まあ、後進の育成を目指して普段はあえて全てを一人でこなすことはしないが。
「どのくらいの規模になります?」
「国中の貴族を招待するぞ!」
「え、もしかして」
「お前の元婚約者とその浮気相手も来る。だが、安心しろ。お前には俺がついてる。絶対守るし、泣かせない。むしろそいつらの悔しがる姿を余興だと思って楽しめばいい」
ちなみに俺はイザベルとの仲を見せつけて、奴らを後悔させる気満々だ。俺に気に入られたイザベルを元婚約者はまた意識するだろう。そうなれば浮気相手だった女は嫉妬するだろう。二人ともギクシャクするだろうし、そんな二人を見ればイザベルだって少しは気が楽になるだろう。
「…聖王猊下がそうおっしゃるなら、信じます」
「大船に乗ったつもりでいるといい!」
「でも、急な招待で皆様来てくださるでしょうか?」
「うん?来るに決まってるだろう?俺達夫婦の結婚式以上に優先することなどなにもないだろう」
現皇帝の大叔父。聖王。そんな人の気に入った相手との結婚式は、何よりも優先すべきイベントだろう。
「それよりもイザベル。俺と親睦を深めよう!差し当たっては、うちの猫でも愛でないか?」
「猫?」
「にゃあん」
俺の着ているローブのフードに隠れていた猫、可愛い可愛いバステトを妻となる人と愛でる。
「このお猫様はなんて名前ですか?」
「バステトだ」
「星辰の神々の一柱の名前ですね」
「ああ。とても賢く勇敢な子だからな。ぴったりだろう」
俺の命の危機を救ってくれた恩人でもある。…恩猫とでもいうべきか?あの時のことはあんまり思い出したくはないが、バステトは愛おしい存在であることに間違いない。
「そうですね。バステト様は愛らしいにゃんこ様です」
「ゴロゴロゴロ…」
「褒められているのがわかるのか、バステト。ご機嫌だな」
「ゴロゴロゴロ…」
喉を鳴らすバステトに、俺も嬉しくなる。バステトは出会ったばかりのイザベルにお腹を見せて撫でるよう要求していた。バステトが懐くのなら、やはりイザベルは良い女性ということだ。
「ああ、そうそう。皇帝陛下が言ってたぞ」
「?」
「いつ結婚するのか心配だった大叔父を引き取ってくれてありがとう、だとさ」
「そ、そうですか」
皇帝陛下の物言いはともかく、俺もイザベルに感謝している。
「俺からもお礼を言おう。本当にありがとう、イザベル」
「え?」
「こんなにも賢くて優秀で、可愛らしい娘を嫁にもらえるなんて楽しみだ」
「…」
こんなに気に入った相手は、久しぶりだ。何故そう思うかは、自分でも心当たりはあるが。
「結婚したら、バステトのことも一緒に可愛がってくれ」
「それはもちろんです」
きっとイザベルは、俺の良い伴侶になる。その日がもうすぐそこまできている。少しだけ、浮き足立つような、そんな気分だ。
今日はタキシードの試着の日だ。もう大方出来てて、あとは魔法で微調整すれば完成だ。ちなみにイザベルもウェディングドレスの試着をする。
「イザベル、それじゃあ試着が終わったら会おうな」
「はい」
「まだ試着の段階とはいえ、着飾るイザベルを見るのは楽しみだなぁ」
「ふふ、聖王猊下のタキシード姿も楽しみです」
子供がタキシードを着る、と思っているだろうイザベル。俺の成長後の姿を見たら、惚れ直してくれるだろうか。
「じゃあ、行ってくる」
「はい」
魔力を操作して、一時的に成長後の姿に変わる。タキシードを着て、少し魔法で手直しする。ある程度髪型なども整えて、少し待ってからいざイザベルの元へ。
「イザベル、入っていいか?」
反応がない。聞き馴染みのない声に戸惑っているのがわかる。
「…えっと、はい」
ドアを開けると、美しい姿のイザベル。正直惚れ直した。可愛い。美人。綺麗。そしてそんなイザベルは、俺を見て頬を染める。
「まさか」
「うん?」
「聖王猊下です…か?」
「そうだ。…魔力を操作して、一時的に大人っぽい容姿にしている。かなり疲れるからやりたくないが、我が花嫁に喜んでほしいから張り切ってみた。当然結婚式当日もこの姿でいるから、楽しみにしていてくれ。あ、ちなみに辺境伯家以上の高位貴族ならばほとんどが幼子の姿の俺もこの姿の俺も知っているから、変な憶測などは心配しなくていいぞ」
つまり、イザベルを捨てたバカとそのお相手も知っているということ。彼らはイザベルに夢中な俺を、どう捉えるかな。
「どうだ、イザベル。似合うか?」
「は、はい!とても!」
「そうだろうそうだろう!イザベルも、とっても似合っているぞ。世界で一番可愛い花嫁だ」
「…えへへ」
照れた顔も可愛らしい。やはりイザベルは最高だ。
「イザベルは着飾ると、本当に誰にも負けないくらい美人だな。でも、化粧がなくても可憐だと思う。うーん、悩ましいな」
「ほ、褒めすぎです」
「我が花嫁を褒めて何が悪い」
「だめ、やめて、ほんとうにむりです。しんぞうがもたない…」
そんなことを言われるとますます意地悪したくなるというもの。
「…ああ、照れているのか?ますます愛おしいな」
口が勝手に動く。褒めて、照れさせて、そんな可愛い顔に勝手に惚れ直してしまう。
「可愛いぞ、イザベル」
いっそのこと押し倒してしまいたいほど可愛い笑顔で、イザベルからストップがかかる。
「…それ以上は私の心臓がもたないのでダメです」
「むう。照れるイザベルをもっと見たい」
「ダメなものはダメです。さあさあ、お互い衣装のお披露目もしたところでそろそろ汚さないうちに着替えましょうね」
「イザベルがそういうなら、仕方がないな」
ということで、着替える。イザベルはアタリだったな。婚約者にしてよかった。
その後子供姿に戻ると、さっきまでのイザベルの熱が冷めてしまってちょっと残念だった。