求婚される
「その…あの…聖王猊下…」
「うんうん、光栄だろう?」
「は、はい、とても光栄です」
「そうだろうそうだろう」
「ですがその…辞退させていただきます」
聖王猊下の目が点になった。
「…何故だ?」
「その、私は元婚約者に捨てられたばかりでして…今はそんな気にはなれなくて…」
「そんな男、俺が忘れさせてやる」
思わぬ男らしい発言にちょっと固まる。どう見ても子供な聖王猊下が言うと、正直めちゃくちゃ可愛い。油断すると絆されそう。
「それに、星辰語翻訳も私には荷が重いと言いますか…」
「大丈夫だ、安心しろ!ベルという翻訳家の能力は俺も知るところだ!お前ほどの実力があれば、魔法書の翻訳もすぐにできるようになる!光魔法も得意なようだしな!」
そう言われると困る。
「お互い名前も名乗ってませんし…」
「俺はユルリッシュ・ナタナエル!ナタナエル皇国の現皇帝の大叔父で、聖王だ!」
「は、はい」
「お前は?」
「…イザベル・ヤニックです。伯爵家の娘です。ベルという名で星辰語の翻訳家もしています」
聖王猊下はキラキラした目で私を見つめる。
「これでもう不安はないだろう!さあ、俺と結婚しろ!」
「…ええっと」
困った。私はショタコンの趣味はない。
「申し訳ございません。やはり私では荷が重いです…」
「…むう。強情だな。ならばこうしよう」
聖王猊下が私の手を掴み、手の甲に手をかざした。…と思ったらなにやら魔法を発動した。
「え?猊下?」
「うむ。これでいい」
「なにしたんです?」
「星痕をつけた」
「え」
星痕とは、星辰聖王が妻とする相手につける印。浮気防止や危機回避などの色々な魔法を付与される。
「え、消してください!」
「いやだ」
「聖王猊下!?」
「結婚式が楽しみだな」
にっこり笑う聖王猊下。してやられた。もう逃げられないことを悟り、私は頭を抱えることになった。