ショタジジイのおまじない
「…イザベル」
そんな夢で一人で泣いていたのに、突然呼ばれて振り返る。そこにはユルリッシュ様がいた。
夢の中でも、頼ってしまうのはやはりユルリッシュ様なのか。
「ユルリッシュ様…」
「そんなところで一人で泣くな。俺の胸で泣けばいい」
夢の中でなら、良いかな。甘え過ぎかな。
でも。
「ユルリッシュ様っ…」
小さな身体に抱きついた。その胸の中で、涙が止まるまで泣き続けた。
「イザベル。悲しかったな、苦しかっただろう。よく頑張ったな」
小さな手で頭を撫でて、背中にも手を回してくれて、優しく慰めてくれるユルリッシュ様。
ああ、いつのまにこの人は、こんなにも私にとって大事な人になってしまったのか。精神的な柱になってしまっていた。
この人は大丈夫。この人は裏切らない。それはなんとなくわかっている。
けど。
「ユルリッシュ様は、どこにも行きませんか?」
「もちろんだ」
「ユルリッシュ様は、私を捨てませんか?」
「当たり前だ」
「ユルリッシュ様は、ずっと一緒にいてくださいますか?」
どうしても確かめたくなってしまう。どうしても不安になってしまう。こんな夢の中だからだろうか?
それとも、本当はずっと不安なまま自分の気持ちに蓋をしていただけ?
「イザベル。もちろんずっと一緒にいる。…なあ、イザベル。俺を見て」
ユルリッシュ様の胸に縋り付いていたのを、顔を上げてユルリッシュ様を見る。
「俺はイザベルを置いていかない、捨てない、裏切らない。あの男と俺は違うよ。俺はイザベルを何よりも大切にする。約束する」
ユルリッシュ様の真剣な表情と言葉に、心から安心する。たとえ夢でも、それでも私はまたユルリッシュ様に救われた。
「イザベル。こんな夢はもう見ずに済むように、安眠できるおまじないをかけてあげる」
ユルリッシュ様が私の額にキスをする。その瞬間、ここは夢なのに眠気が襲う。
「夢すら見ないで、熟睡しよう。目が覚めたらきっと、爽やかな朝を迎えられる」
「…はい、ユルリッシュ様」
このまま眠気に身を任せてしまおう。
夢の中のユルリッシュ様は、そんな私を夢の中で寝落ちするまでずっと抱きしめてくれていた。




