愛おしい妻との結婚式
時はあっという間に過ぎて結婚式当日。大聖堂に多くの貴族が集められた。
大人姿になって、タキシードを着てイザベルの元へ行く。
「イザベル!ああ、やっぱり可愛いな」
やっぱりウェディングドレスを着たイザベルは美しい。試着の時よりさらに綺麗に見えるイザベルに、またも惚れ直した。可愛い。美人。綺麗。
「綺麗だ。この世の誰より美しい」
「えへへ。褒め過ぎですよ、聖王猊下」
「本音だ」
イザベルの両手を包むように握り込む。
「もう結婚の書類も提出したし、俺たちはこれから夫婦だ。聖王猊下、ではなく名前で呼んでくれ」
「…ユルリッシュ様?」
「イザベル、可愛い」
そっと頬に口付けする。最初はその光魔法と星辰語の翻訳能力目当てだったが、可愛いし着飾れば美人だし、性格も良さそうだしもう言うことない。
「さあ、行こうか。我が妻の美しい姿を、価値もわからないアホどもの目に焼き付けてやろう」
後悔しても遅いぞ、アホどもめ。
そして俺が先に会場に入り、イザベルも義兄上に連れられてバージンロードを歩く。
俺の目には今、イザベルしか映らない。
「ユルリッシュ様…」
「イザベル。俺が世界一幸せにするから。指輪をはめてもいいか?」
「…はい!今私、もう世界一幸せですっ…!」
「…本当に可愛い」
まだ誓いのキスには早いのに、ついイザベルの額にキスをしてしまう。そして指輪をお互いにつけて、誓いのキスを交わした。
すると万雷の拍手が送られて、ちらりと会場の連中の顔を確認する。
色んな感情が見てとれる。本当に心から祝福する者。羨ましそうに見てくる者、嫉妬からか憎憎しげな目を向けてくる者。
悔しそうな顔や気まずそうな顔の奴は、イザベルを貶めたことのある奴だろう。ざまぁみろアホども!!!見る目のない自分を恨むがいい!!!
そして事前に調べてあった、イザベルの因縁の相手。元婚約者とその浮気相手だった女。…ものすごぉーく、悔しそうな顔をしていた。絵に描いたような嫉妬と後悔剥き出しの顔。ざまぁ!!!
「イザベル」
そっとイザベルだけに聞こえる声で話しかける。
「なんですか?」
イザベルもこそっと小さな声で返してくる。
「あっち」
俺の目線の先を追うイザベル。見た瞬間笑ってしまいそうになりぐっと堪えるイザベルも可愛い。
「ゆ、ユルリッシュ様、笑ってしまいますから!」
「笑ってやれ笑ってやれ。惨めだなぁ、本当に」
「ぐっ…」
「感動し過ぎたふりか?イザベル。猫被りも上手だな、可愛い」
吹き出してしまったのを感動で泣いたフリで誤魔化すイザベル。本当に可愛い。イザベルは一挙一動全て可愛い。誤魔化してる姿が可愛くて、ついイザベルにだけ聞こえる音量の声でからかってしまう。
その後は、大聖堂内の別の部屋に移動して披露宴に移る。結婚式の厳かな雰囲気と違い、和やかなムードで祝福される。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
みんな口々に俺たちを祝福する。心からの祝福、羨ましそうな祝福、嫉妬に塗れた祝福。どれも今は気分がいい。
「…イザベル」
「…」
ただ。
妻の元婚約者というのは、なんだか許してやる気にはならないなぁ?
「おっと、俺の愛おしい妻を勝手に呼び捨てにしないでもらおうか」
俺の言葉に、自分の失態を自覚したらしい。すぐに謝ってくる男。
「…っ!も、申し訳ありません、聖王猊下。…ご結婚、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。お前がこの素晴らしい女性に〝捨てられてくれた〟おかげで、俺はこんなにも幸せだ」
捨てられたのは、実際にはイザベルの方ということになるんだろう。でも、今ではイザベルの方が立場は上なんだ。この物言いも間違いじゃないだろう?それと、自慢もしておくか。自意識過剰な連中への牽制の意味も含めて。
「イザベルは凄いんだぞ?光魔法をそれはもう素晴らしく使いこなすし、星辰語の翻訳の腕も相当だ。俺はプロポーズを受けてもらえなければ、聖女として認定してもいいと思ったくらいの実力者だ」
大きな声でイザベルを自慢しておく。その言葉に会場はざわざわと騒ぎ出す。すごいとか、それで結婚したのかとか。
「ああ、勘違いしてくれるなよ?それだけで結婚するんじゃない。みてくれ、我が妻は美しいだろう。見た目に違わず心も綺麗だ。羨ましいだろう?」
たしかに、お美しいのは間違いない、そんな声も聞こえてきた。わかってるじゃないか。
まあ、最初は普通に光魔法と星辰語の翻訳能力だけを買った結婚だった。
けど、元々イザベルは可愛らしいし、着飾れば美人だし、性格もいいし。今では本当に、結構好きだ。恋愛感情かと言われると、わからない。でも、お気に入りで間違いない。
そしてイザベルを捨てたアホである奴は、俺の目の前だと言うのに顔を歪めて歯軋りしていた。ざまぁ!!!
「ま、そういうわけで、俺は妻を愛しているからお前はもう妻に近寄るなよ。しっしっ」
そういえば奴ばっかり見ていて隣に立つ奴の婚約者…元浮気相手のご尊顔見てなかったなぁとちらりと見れば、鬼の形相。なんだよ、やっぱりイザベルの方が美人じゃないか。ざまぁみろ!!!
その後は問題も起こらず、穏やかに時間が過ぎた。無事披露宴も終了して、俺はイザベルを休ませてやることにした。




