強盗する奴と強盗をボコボコにする奴
さて、狩りから帰って2日後朝飯をポールと食っていたら亭主がやって来た。
「なぁ、マクミランの姉御」
「んー?」
「最近、野菜を仕入れている農家がゴブリンに畑を荒らされてて弱ってるそうなんだ。
アンタの力で農家を助けてやってくれねぇか?」
亭主が困った顔で告げる。
何で俺に言うんだよ。
「そう言う依頼はギルドに出した方が良いかと……」
向かいで同じ様に飯を食っていたポールが手にしていたスプーンでスープを掻き回しながら控えめに発言。
「1ヶ月も前から張り出してるんだが、場所が遠いのと平均より少しばかし報酬が少ないのもあって中々冒険者が受けてからねぇんだ。
3日前に来るはずだった馬車もいつもよりだいぶ少ない野菜しか積んでなくてよ。
このままいくと、ウチの食堂で食える野菜が無くなっちまうんだ」
それは困る。
「相場より安いって言われてもなぁ?
オレ達だってボランティアじゃねぇんだ」
金はあるんだ、マジで。飯とか食ってるけど、これはカモフラージュみたいなもの。怪我も実はじっとしてれば回復するし。
だから回復薬とか実は中身はただのジュースだったりする。
周りの連中が魔力回復だの傷薬だのに掛かる金はゼロだし、食事も摂る必要がないから俺の分は他の方舟の奴に回してた。勿論、何か食べないと怪しまれるのでギルドが二束三文で売り出してる味のしない謎の堅パンを齧って過ごしていた。
「なら、1年間お前達の食事を半額にする。
これでどうだ?」
随分と気前が良い。
ポールを見るとポールは困った笑みを浮かべて首を傾げた。
「俺は乗ってもいい。
お前は?」
「ぼ、ぼく!?」
「ああ、そうだよ、僕だよ。
お前と俺はパーティー組んでんだ。相棒の意見も聞かなきゃ行けねぇ。そうだろう?」
「あ、はい、そうですね。
食費が半分になるのは良い事です。僕はほとんど戦闘に加担出来ないのでマクミランさんさえ良ければ否定する理由はありません」
ポールは亭主を見る。亭主は顔を綻ばせてありがとうとオレたちの手を握った。
それから俺とポールはギルドに行って件の依頼を受ける。
「では、依頼を承りました。
成功の際は依頼主から承認証を回収し、ギルドに提出して達成となります」
「知ってる知ってる。
んじゃ行くぞーポール」
「はい!」
ポールを引き連れてゴブリン狩りだ。乗合馬車で3日乗り継いだ先にあるらしいが、馬車はケツも痛いし金も掛かる。
じゃあ他に方法はあるのか?と言えば俺より前に来た転生だか転移者が作った魔力を使って移動する自動車がある。が、これは死ぬほど高い。マジで一部の貴族とか金持ちしか持てないレベルの高級品。
なので、俺はサイドカーの付いたバイクを出す。
「え、何ですかこれ」
「サイドカーだよ。見りゃ分かんだろ。ほら、さっさと乗れ」
サイドカーを指差して俺は操縦席にまたがる。
バイクを駆れば1日で着く距離だ。アクセルを捻り、加速する。道中は馬車用の道を行く。行き交う馬車を縫って走って行くと何やら車軸が折れたのか馬車が一台立ち往生しており渋滞になっている。
「鍛冶屋が来ないとどうにも出来ない」
「取り敢えず、馬車の荷物だけでも脇に退かして道を開けろ」
「なら手伝ってくれ」
そんな会話が聞こえてきた。
俺は勿論手伝う気はない。ポールはアセアセしながら俺と馬車を見る。馬車の積荷は中位の大きさのクソ重そうな壺だ。それを大量に積んでおり、保護の魔術を掛けているのか散らばるツボは割れていない。
ふーむ……ふむ。
「まぁ、のんびり行こうぜ。
すぐに着く」
靴を脱ぎ、ハンドルに足を置く。暫く眺めていると何処ぞの宗教家共の一団が来て荷物の移動を手伝い始めた。シスターが二人にジジイの神父だ。
ポールがアッと声を出したので見るとサイドカーから立ちあがろうか、踏み止まろうか考えていた様子だ。手伝った方が良いのだろうが、果たして自分が行って本当に役に立つのだろうか?と言う葛藤だろう。
自己肯定感めっちゃ低いもんなコイツ。どーでも良いけど。
「あの!」
そして、せっせと働くシスターのうち一人がやって来た。
「どうしたー?」
「もし宜しければ、一緒に荷物を退かすのを手伝って頂けませんか?
みんなでやれば早く終わりますし」
「おーそりゃ名案だ。
俺はここで見てっからポール行って来いよ。お前、腕力とか無さそうだから荷物運びとかして筋肉鍛えな」
良いタイミングで勧誘が来たのでポールを出しておく。
「あ、う、うん!
行ってくるね?」
「おーう」
シスターはありがとうございますと頭を下げ、他の方にも聞いてきますと走って行った。俺はそんなポールを尻目に目を瞑ってゴブリンをどうやって殺すかを考える事にした。
数によるだろうが基本はアサルトライフルだ。AS Valも良いがたまには別の銃を使おう。何が良いかな?
「おい、起きるにゃ」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。片目を開けると獣人族の、猫種の少女が腕を組んでコチラを睨んでいた。
「何だ?」
「アンタも手伝うのにゃ」
「お前、盗賊だな?」
この世界にも役職で盗賊、シーフがある。盗賊と言うと悪いイメージがあるが実際盗賊の技術が普通に冒険者稼業にも応用出来るのでシーフという役職になったそうな。
まぁ、手癖が悪い奴もいっぱいいるので基本的に軽く見られる。
「そうにゃ」
「お前、俺を手伝いに行かせて荷物漁る気だろ?そうだろ?なぁ!?」
左手で胸倉を掴み、そのまま右手でホルスターに収めたMk.23を引き抜き何やらコソコソしている別のシーフを撃つ。
「ポール!戻って来い!
コイツら最近話に聞くコソ泥だ!」
「は、離すにゃ!」
「離すわけねぇだろ、ボケ。
ポォォル!!縄持って来ぉぉい!!」
事態を掴めないポールに指示を出すとポールはすぐにロープを持ってくる。
腹を抱えて蹲るシーフを縛れと告げ、掴んでいる獣人のシーフをそのままに馬車の持ち主に銃口を向ける。
「お前!グルだな!
舐めた真似しやがって」
ぶち殺すぞ!と脇に転がる壺を撃つと、壺から砂がこぼれ落ちた。確定だ。
「逃げたら背中に弾ぶち込むからなぁ!!
ポール!全員縛ってその辺に転がせ!荷物なんか全部投げちまえ!砂入りの壺なんざ誰もかわねぇ」
全員の身包みを剥いで街道脇に投げておく。両手足を後ろで縛って頭には脱いだ服で目隠し。
全ての壺と壊れた馬車を退かす頃には夕暮れ近い。
「シスターさん達は街に行ってこの馬鹿共の事を知らせてくれ」
「分かりました。
この距離ですと往復1日。明後日の昼頃には戻って来ますので」
「おう、気をつけろよ」
俺達はシスター達を見送る。
「んじゃ、俺達も行くか」
「えぇ!?
この人達を見張らないの!?」
「見張るわけねぇじゃん。
コイツ等の両手足はロープと結束バンドで結んでるし武器防具も全部シスター達に渡してる。靴も取り上げちまったし服も無い。
逃げたところで遠くに行けやしねぇよ。
それに、俺たちも暇じゃ無いんだぜ?ここまで悪質だと良くて奴隷落ち。最悪縛り首だ」
この世界の犯罪は結構厳罰が多い。窃盗は盗った物に関わらず3回までなら利き腕の骨折か鞭打ち、強盗、殺人に放火は基本縛り首だ。
強姦は奴隷落ちらしい。まぁ、あとは判事たる領主とかの機嫌で決まる。
「魔物に食われるか、縛り首の差だろ?」
乗れと告げてバイクのエンジンをかける。
「ま、待って欲しいにゃ!!」
俺に話しかけて来た猫の少女が叫ぶ。小便漏らしてる。
「またねぇよ馬鹿。
運良く生きてシスター達と合流出来たら心入れ替えて奴隷落ちになるのを祈るんだな」
ポールが乗ったのを確認し、出発。
とんだ時間の無駄だったな。クソが。