ギルドの偉い奴とかなり異端児な奴
さてはて、鹿を追いかける事はや3日。猟果は大量。いや、最強。意気揚々と宿に戻り、亭主に報告。
「よぉ、死ぬほど大量に取ってきてやったぜ」
「お、アンタか。
中々帰ってこないから死んだかと思ったぞ。明日、ギルドに届出を出すところだった」
「はぁ?
ちゃんと狩りに行くって言っただろ」
届出出されて1週間くらい捜索され、そこから遺品や死体を見つけれないと行方不明扱いになる。そして、その後は遺品や何かを発見すれば正式に死亡扱いになる。見つけた者には謝礼として行方不明者のランクに応じた金が入る。
「それで3日もいなくなる奴は初めて見たよ」
亭主は呆れた顔をしていた。
「まぁ、良い。アンタが無事に帰ってきたんだ」
それで?と猟果を促されるのでテーブルの上に大量の肉を出してやる。血抜きもバラシもしてあり、部位ごとに分かれてストレージバックという冒険者必携の滅茶苦茶なんでも入る魔法の鞄から取り出す。
これ、滅茶苦茶有名な魔術師一門が作っており、入る量によって価格が変わる。俺は最上級のデカさを買った。死ぬ程はいる。
「メンタを5頭、オンタを6頭獲ってきた」
亭主は驚いた顔をしてからメンタ1頭と言われたので渡す。
「アンタのお陰で肉は暫く困らないな。
飯は半額、定期的に取ってきてくれるなら無料とかも考えて良いぞ」
「了解、任せた」
残りの肉は売る。持っててもしゃーないからな。
ギルドに行くと言って外に出る。既に外は夕暮れで、街はオレンジ色に染まっていた。ギルドに向かうと任務終わりの冒険者達でごった返している。
列に並び待つ事20分。
「マクミランだ。
狩ってきた鹿を売りたい」
ギルドカードを出しながら告げる。
すると職員が形式的な笑顔をスンと消してお待ち下さいと告げると奥の方に走っていった。そして直ぐに受付の長と共に戻って来た。
「ギルド長がお呼びです」
「メンタ4にオンタ6。
渡すから話終わったら金にして寄越せ」
めんどくさいが呼ばれたら行かなくちゃいけない。受付の上に計10頭の鹿を置いて受付長の後に続く。ギルドはホールと呼ばれる依頼が貼り出される掲示板、各種受付や換金、販売をするカウンター、冒険者が利用出来る居酒屋スペース場所とホールの2階には個別の依頼を商談する場所、ホールの奥は事務所や各種ギルド保有の加工場や鍛冶や諸々をする作業場とギルド長がいる部屋がある。
俺はその最奥にあるギルド長の部屋に入った。
「マクミラン、待ってたわ。かなり、ね」
ギルド長は魔女だ。ドチャクソエロい格好をして何時もキセルを咥えたえっちなオネェさん枠。ただし、その右目は大きな傷があり、目玉は義眼が入っている。
昔ドラゴンにやられたとかなんとか。
「良い女ってのは何時まで待ってても良いもんだろ?」
眠そうに垂れた瞳は少しこちらを睨み付けているが、構わず冗談を飛ばす。
ソファーに腰掛け、テーブルに足を乗せる。格好はギリースーツから例のエロい格好だ。
「減らず口は相変わらずね」
「ありがとよ、んで?」
受付長がコーヒーを淹れて俺の足の脇に置く。お茶請けはクッキーだ。
「お茶請けはケーキが良い。
あれな、マルマンの所のチーズケーキだ」
「分かりました」
受付長はクッキーを片手に出て行った。
「貴女に暴力を振るわれたって言う届出が一件、まぁこれは全面的に依頼人が悪いわ。でも、殴っちゃダメよ」
魔女は書類を見てから脇に捨てると書類は床に落ち前に燃え尽きて、微かな灰となって床に到達する。そして、すぐに傍から小さな箒が走って来てそれを片付けてしまった。
「次に、まぁ、これが本題なのだけど。
何故、貴女は黄金の方舟を辞めたの?
勝手に」
勝手とは失礼な。
「俺はちゃんとあいつ等に言ったぜ?
ポールと一緒に行くって。そうしたらあいつ等何も反対しないからって出て来たわけよ。んで、ポールの奴もどーせ一人じゃパーティー入るのも大変だろうからってんで、俺と組んだ訳よ」
簡単な話だ。
「つーか、お前が俺に干渉する権限ねぇだろうが。
黙ってモクでもやってろオッパイババア」
中指を立ててケーキを頬張る。コーヒーとケーキを堪能して終え、俺は立ち上がる。
「じゃあな」
「ええ、近々貴女の元に方舟の人達が向かうと思うわ」
「なら、なんつったけっな。宵闇の黒猫亭だったか?そこに来いよ」
「微睡の黒猫亭よ」
「何でも良い。
都合が合えば居る」
都合については知らんけど。
「なら、3日後に行くわ」
「おー3日後なー」
部屋を後にしてホールに戻る。ホールに行くと新米の冒険者達が何やら言い争いをしている。何だか知らんが、ギルドホールで喧嘩は御法度だ。
心優しい俺は喧嘩をしている冒険者6人を平等に股間を蹴り上げてやった。
「ギルドで喧嘩すんじゃねぇ!
次やったらもう片方の玉も潰して教会に売っ払ってやるからな!
テメェ等も囃し立ててねぇで止めろボケ!額に第三の目を付けれる様に穴開けんぞ!」
居酒屋コーナーで酒を飲んでた冒険者達を睨み付けると、全員が悪かったよと両手を上げた。
因みに女でも股間を蹴り上げると普通に痛いらしい。
男は泡吹いて気絶したり小便を漏らしたりしてる。ギルドカードと財布を漁り、財布は貰いカードは駆け付けた用心棒の冒険者に押し付ける。
「お前等もしっかり教育しろ。
次対応が遅れたら俺がこのホールの用心棒やるからな」
用心棒の冒険者とはギルドが発行する依頼の一つでこのホールで起こる揉め事を解決する役目の冒険者だ。基本的に荒事なので腕自慢がやるのだ。
俺も過去に何度も受けたし、俺がいる時はみんな大人しくしていた。最近の奴等はヌルいのだ。俺の時は容赦無く脚撃ったり、全治半年の怪我をさせまくったのだ。新人も玄人も貴族も関係なく、平等に、等しくボコボコにしてやった。
楽しかった。
昔懐かしい記憶を思い出しながら帰路に着くとポールが食堂の隅っこでチビチビと酒を飲んでいた。
その向かいには見知らぬ女が座ってる。眼鏡をかけた事務員みたいな女だった。
「よぉ、ポール。
何を集られてんだ?」
女に詰めろとテーブルの隅に寄るよう告げ、椅子を引っ張ってくる。
「ち、違います!
この人は僕の後任の事務方全般にやって下さるミズーリさんですよ!」
「知ってるよ」
よろしくと挨拶しながら亭主に酒とツマミを頼む。亭主は満面の笑みで喜んで!と告げた。
因みに客は俺たち以外には居ない。
「あの、貴女は?」
「マクミラン。
ポールと一緒に箱舟を辞めた冒険者さ」
「貴女が噂の無慈悲なマクミラン?」
何だそのあだ名。
「もっとカッコいい二つ名付けろよ」
「わ、私に言われましても……
表情一つ変えずにギルドホールで喧嘩する冒険者の股間を蹴り上げ、ゴブリンやオークの子供も平気で殺し、挙句投降してきた山賊を皆殺しにした事から無慈悲なマクミランと言われる様になったと聞きましたが……」
暫く考え、全部事実だった。
「俺は依頼をこなしただけだ。
文句あるなら依頼人と承認したギルドに言え。俺のせいじゃねぇ」
全く失礼な奴だ。