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序章④ 少年は少女と出会う

 翌日、セレスはスゥをローウェルに任せて、十一時ごろに、町へと出掛けていった。

 白い光を放つ街灯が町を照らし、趣のある赤レンガの建物が立ち並んでいる。

 二年前と何一つ変わらないよく知る町。たくさんの人が行き交うにぎやかな市場を抜けると、少し落ち着いた人ごみがない場所に出る。

 街並みは区画整備がしっかりされており、道に凹凸があまりなく、歩きやすい。

 行き交う人々は気品のある服装をしており、ただの少年であるセレスが場違いのように見えた。

 この国の首都ルーメンウルブスのランドマークである時計塔の近くまでセレスは来ると、付近にある高級そうなレストランへと入った。


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」


 落ち着いた声の紳士服の男が声をかけた。


「グローと約束をしている」


 セレスが言うと男性は驚く。


「本当に少年とお約束されていたんですね。失礼しました。どうぞこちらに」


 男につれていかれ、セレスは一番遠い個室まで案内される。


「こちらにいらっしゃいます。どうぞ、ごゆっくり」


 そう言うと男は戻っていった。セレスは男が去っていた後、個室のドアを開く。中に入ると、白いテーブルクロスの上にフォークやスプーンが正しい配置に置かれていた。席は二つあり、ドアから遠い席に黒髪オールバックのタキシード姿の長身の男が座っていた。

 蛇のような黄金の瞳がセレスの方へ動く。


「久しぶりだな、セレス。こうやって話をするのは二年ぶりか」

「そうだな」

「ルーメンウルブスにお前は来たがらない。元気そうで何よりだ」

「……世間話をするために僕を呼んだわけじゃないだろ。グロー」


 セレスはそう言いながら、グローの向かい側の席に座った。

 グロー・ガーランド。世界に四人しかいないSランク希灯師の一人だ。ラーンルミナの光壁、光源は彼の希灯の白い光によって賄われている。セレスが通ってきた道の街灯には全てグローの希灯が使われている。故に別名、太陽と言われる男である。そして、セレスに仕事を与える男だった。

 グローは手を組ながら、セレスに言う。


「もちろんそうだ。光壁襲撃事件は知ってるだろ」

「ああ」


 グローは指を三つ立てて言う。


「三体、たった三体だ。ナイトメアが光壁内に入っただけで、被害はラーンルミナ中に急速に広がっている。至急、希灯師が対応にあたってるが、希灯師は元々人手不足だ。それに妙に強いナイトメアが多く、希灯師が返り討ちに合うケースが多くてね。その辺はお前に頼もうとしたが、来て早々、お前は辺り一帯を破壊するし、知らない少女はいるし、一ヶ月も寝ているし、片付けが散々だった」

「それはすまなかった」


 セレスは無表情で答えた。誠意があるのかないのかわからない。

 グローは特にセレスの態度を気にすることなく、話を続ける。


「それで、私はお前に聞きたい。あの日、何があったんだ」

「それは……」


 セレスはルーメンウルブスに来た日のことを話す。たまたま、ナイトメアに寄生された娘を助けてほしいと言われ、ナイトメアを浄化していたこと。ナイトメアを追うと、ナイトメアを慕う奇妙な少女を見たこと。怪しげな希灯式に捕まったこと。空間の歪みから出てきた少女、スゥと会ったこと。

 話している間に料理が運ばれてくる。セレスにはサンドイッチとサラダとスープ。グローには前菜と肉料理等。運ばれてきた料理に差があるのは、軽食を好むセレスへの配慮だろう。


「ずいぶんといろいろなことに巻き込まれたらしいな。ナイトメアを慕う少女、謎の希灯式、お前といた少女、スゥか。一つずつ話をしよう。まずはナイトメアを慕う少女。お前が言っている特徴と合致する少女はラーンルミナ各地で目撃されている。私達は彼女をメアと名付けて呼んでいる」

「……メア」


 セレスのサンドイッチを取ろうとした手が止まり、サンドイッチを見ていた目がグローの方を向いた。グローは淡々と考えを話していく。


「おそらく、光壁襲撃事件を含めここ最近の急速なナイトメアの増加や強いナイトメアが多いのは彼女の存在が関係しているように思える」

「ナイトメアの異常な増加は鈴風から聞いた。確証はないがその可能性はあるだろう。頭に入れとく」


 そう言ってセレスはサンドイッチを一口食べた。


「できればお前はその少女メアについて追ってほしい。ただ者ではないだろうから、その辺の希灯師には頼みづらい」

「わかった」


 グローは切り分けた肉を一口食べる。食べ終えると話を続けた。


「次にお前が捕まった希灯式か。まずおかしいのは、術者がお前ということだ」


 セレスは記憶にある穴から出てきた大量の蒼い希灯式を思い出す。通常、希灯術は術者によって色が変わる。グローなら白、セレスなら蒼だ。あの希灯式の色は間違いなく蒼で、セレスの希灯の色だった。


「……僕はあの希灯術を使った覚えはないし、初めて見た希灯式だった」

「ある条件で、術者に希灯術を使わせる希灯術があるとしたらどうだ」

「……そんなことができるなんて聞いたことがない」

「仮にも、の話だ。そもそも、希灯術は『願い』の力でできている。術者の願いが強ければ多少無茶なことでもできないことなんてないだろう」


 セレスは黙った。グローの話は、正直、信じがたい。しかし、あるとすれば説明がつく。

 あの時、セレスは強烈な頭痛やだるさなど明らかに体の異常をきたしていた。もしそれが、希灯術を使わされていたとしたら可能性はある。あの希灯術は光の質量や壁一面の希灯式の量からかなり大規模なものと思われ、相当の『願い』を消費するだろう。

 あの後、一ヶ月もセレスが眠っていた理由は消費した『願い』を回復するためだったのだろうか。


「……もし、そうだとしたら、僕に希灯術を使わせたのはメアっていう少女?」

「お前の話を聞く限り、そう言う風に見えるな。まあ、あくまで憶測でしかないがな」

「…………」


 セレスが黙ってスープを飲みながら考え事をしているとグローが口を開いた。


「そうなると、そのスゥという少女はかなり重要かもな」

「なぜ」


 セレスが聞くと、グローは悪人のような顔で小さく笑った。


「メアは、セレスに希灯術を使わせてスゥを呼び出したと考えられないか。そして、そのスゥは幸運なことにこちら側にいる。そう考えると、私達にはまだ手があるように思えないか」


 グローは肉料理の付け合わせにあったニンジンを一つだけ残るブロッコリーとポテトの山の方ではなく、いくつかに切り分けられている肉の方に移動した。グローは不謹慎にも楽しそうに話す。


「スゥはこちらの切り札になりえそうだな。セレス、彼女を監視してくれないか。些細なことなんでもいい、私に報告しろ。鴉は飛ばしておく」

「……承知した」


 セレスは歯切れ悪そうに答えた。グローはセレスを気にすることなく続けた。


「私が聞きたかったことは以上だ。セレス、お前は私に聞きたいことはあるか」

「特にない。聞きたいことは粗方同じだった」

「そうか。なら、お前に一つ、仕事を頼もう」


 そう言ってグローは手に持っていたフォークを置いた。黄金の瞳がセレスを捕える。


「ルチャーナのナイトメアを浄化してほしい」


 手を組み、楽しそうにグローは言った。

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