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序章② 少年は少女と出会う

 手から温かい何かを感じる。誰かが自分の手を握っているようだった。それに促されるように重い目蓋を開くと光が差し込んだ。霞む視界の中、目の前の赤い少女がほっとした顔で、口を開き、少年に声をかけてきた。


「セレス、起きたのね」


 懐かしい声が聞こえた。視界がはっきりしてくる。心配そうに少し潤んだ紅色の瞳に、艶やかな深緋色のツインテール。その髪には鈴のついた紅色のリボンがついていた。服は、この国、ラーンルミナでは見ない赤系の派手な和服を着ている。


「……鈴風」


 眠っていた少年、セレスは目の前の少女、鈴風の名前を呼んだ。鈴風は感極まって、セレスを強く抱き締めた。着やせしているが大きな胸が、セレスの胸に当たる。


「……お姉ちゃん、心配したんだよ。一ヶ月も目を覚まさなかったから。本当に心配したんだから。起きてくれて本当によかった」

「……ごめん、鈴風」


 セレスは優しく鈴風を抱き返し、背中をさすった。鈴風はセレスが起きたことが相当うれしかったようで、しばらくセレスに抱きついたまま離れなかった。セレスはそんな鈴風に少し困りつつも、先ほどの鈴風の言った言葉に気になる点があり、聞いてみた。


「僕は一ヶ月も眠っていたのか」

「そうだよ、全然起きなくって、もう起きなかったらどうしようかと思った」


 鈴風は強く抗議した。セレスは心配かけて申し訳なかったと思いつつも、一ヶ月も眠っていた事実に驚いた。なぜ、そんなに眠っていたのだろうか。


「……すまない、鈴風。あと、ここどこなんだ」


 鈴風に抱きしめられながら横目で周囲を見たところ、薬や器具などの棚は見つからない。病院ではないだろう。匂いも病院独特の薬のような甘い匂いもしない。見えるものはタンス、本棚、机、椅子、一般家庭にあるものばかりで、誰かの部屋のように思えた。


「先輩の……、ローウェル・プロークの家って言うとセレスはわかるのかな」

「ああ、ローウェルの」


 鈴風はセレスから離れると、ベットの隣にある椅子に座った。同時にセレスはベットから体を起こす。鈴風はセレスの反応を見た後、軽く目を伏せた後に再びセレスを見て尋ねた。


「……本当に知り合いなのね」

「鈴風こそ、ローウェルのこと知っているんだな」

「うん、学園の先輩なの」

「そうなんだ。……どうして僕は一か月の寝ていたのにも関わらず、病院ではなくローウェルの家で寝ていたんだ」

「あー、それはね」


 先ほどの気まずさはなくなり、鈴風はすらすらと説明し始めた。


「病院をね、追い出されちゃったの。理由は、ベットがいっぱいになっちゃって、寝ているだけならどこかに移動できないかってお医者様に言われちゃったの。私は学園の寮に住んでるから、セレスは入れないじゃない。困ってたら先輩が声かけてくれて先輩の家に移動させたの」

「でも、どうして病院がいっぱいになっている? 伝染病でも流行っているわけじゃないだろ」

「ナイトメアよ」


 鈴風は静かに告げた。


「ラーンルミナの光壁襲撃事件は知っているわよね」

「ああ、知っている。僕はそのせいでラーンルミナの光壁内部まで呼出された」


 光壁襲撃事件。ラーンルミナにはドーム状の見えない光の壁が張られている。この光壁によって外からナイトメアが入ってこれないようになっているが、一か月前、数百体のナイトメアがなんの前触れもなく襲ってきた。ナイトメアに対抗するため、希灯師達が戦ったが、光壁の一部は破壊され、三体のナイトメアがラーンルミナに入った。これを受けて、希灯師だったセレスは急遽光壁内部まで戻るように命が下った。


「ええ、そうね。たった三体だけだったのに、今はずいぶん増えちゃったみたいで、ナイトメアで眠った人と、ナイトメアにやられた希灯師が病院に運ばれてくるの。だから、治療を必要としないセレスはどこかで面倒見れないかってなったの」

「……大体事情は理解した。グローから連絡は」

「起きたら連絡しろって言ってたわよ、ほらそこ」


 鈴風が、少し冷たい声色で窓の外を指さした。窓の外を見ると光る白い鴉が木の幹に止まっている。鴉は羽を羽ばたかせながら、こちらをじっと見ていた。


「わかった。後で連絡する」

「あんまり、無茶はしないでね。病み上がりなんだから。あと、聞きそびれちゃったんだけど……」


 鈴風は俯き口ごもった。膝の上を見ると、和服の生地をぎゅっと握りしめている手が見えた。


「何」


 セレスが鈴風に聞くと、鈴風は絞りだすような声でセレスに聞いた。


「先輩は、セレスのこと、知ってるの」

「知らない」


 セレスはなんの感情も乗せずに言葉を返した。鈴風は大きく目を開いた。それと同時に顔が歪む。そして、小さくやっぱりと呟いた。


「先輩が、セレスのことを知ったら、セレスはどうするつもりなの」

「その時が来たら、受け入れるよ。どんな結果になっても」


 それを聞くと、鈴風の手が微かに揺れ、力が入ったのがわかった。


「……たとえ、殺されようとも受け入れるの」

「……ああ、もちろん」


 セレスは目を閉じ、静かに答えた。


「……そう。お姉ちゃんは止めるわ」

「これは僕とローウェルの問題。鈴風が、何か言う権利はない」

「だとしてもっ!」


 鈴風が椅子から立ち上がった。その時、ノックもせず、部屋のドアが、勢いよく音を立てて開いた。


「おい、あの女の子が起きたぞ!」


 セレス、鈴風共に、この部屋のドアから入ってきた訪問者の少年へ首を動かした。ドアから入ってきた少年は驚いており、どこからか走ってきたようで、少しだけ、息が上がっている。薄い金色の長髪。髪の毛はぶっきらぼうに一本に結わえてある。瞳の色は紫でセレスより、頭一つ分は大きい少年だった。この家の主、ローウェル・プロークだった。


「って、セレス、お前も起きたのかよ。リンドールが心配してたぞ」

「その話は本人から聞いた」

「その様子だと、そうみたいだけど、いいのか、なんか大事な話していたように見えたが」


 ローウェルは立ち上がった鈴風を見ながら言った。セレスは鈴風を見ることなく、ローウェルと話を続ける。


「大したことを話してない。それより、女の子って何」

「お前の大したことないは大したことが多い気がするが、まあ、今はいい。お前と一緒に倒れていた女の子だよ。なんかすごい白い」


 それを聞くと、セレスは自分が気絶する前の記憶を思い出した。空間の歪みから出てきた謎の少女。妹と似たあの少女を。少女もおそらくセレスと同じ理由でローウェルが引き取ったのだろう。


「僕もその子に聞きたいことがある。連れて行ってくれないか」

「わかった。リンドールも行くか」


 鈴風はセレスを見た後に何事もなかったかのように答えた。


「心配だから私も行くわ」


 そう言って三人は二階のへと上がり、少女のいる部屋へ移動した。

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